【完結】藤城先生は、疲れすぎて小説が書けない

1/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
藤城一成(ふじしろかずなり)先生は、いつも、疲れている。 小説家でイケメンではあるが、売れっ子ではない。 なので、貧乏である。 母一人、犬一匹と暮らしている。 藤城先生の小説は、売れないので、原稿料も安い。 だから、もう七十になるお母さんが、パートで、ビルの清掃をして生計を立てている。 藤城先生は、いつも、申し訳なく思っているが、藤城先生は、小説を書くことしか出来ない人間である。 申し訳ない、、と思う度に、どっと疲れる。 いや、働いているお母さんの方が疲れているのだ、と思うと、また余計に疲れてしまう。 ドツボである。 しかし、当のお母さんは、楽しそうに働いている。 だから、藤城先生の思い過ごしなのだが、もう、そう思ってしまう性格なので、どうしようもない。 今日も、お母さんが、仕事に出る前に、いつもの栄養ドリンク剤を飲んでいる。 リポ○タンDである。 お母さんは、このドリンク剤のことを、「リポ○タンでー」と言う。 藤城先生は、いつも、それを聞く度に、「でー」ではなく「ディー」ではないか、と思うのだが、どちらが正しいのか、何十年も前から、謎である。 藤城先生にとって、そんな些細なことさえ、疲れる原因となる。 もう、そんなに疲れるなら、リポ◯タンでーだか、ディーだか、を飲めばいいのだが、藤城先生は、自分は、働いていると思えないので、申し訳なくて、飲めないのだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!