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八神一
信じられないような事件に巻き込まれた。
殺人事件なんてドラマの世界の話しだと思っていた。
まるで悪夢を見ているような気分だ。
状況から見て間違いなく他殺だろう。
胸元にナイフが刺さって、カーペットに赤い血が広がっていた。
自分で胸に刺すことなど不可能だ。
侍が切腹した時も介錯がいなければ、無様に生き恥を晒すことになるそうだ。
そしてなぜか、遺体の手元には『81』と謎の数字が記されてあった。
ダイイングメッセージなのだろうか。
確かに父親は高齢だが『81』歳と言うわけではない。
その後、慌ただしく警察が訪れ鑑識によってあの鬼堂豪が他殺だったと断定された。
捜査の指揮を取っているのは地元の堂島署の鰐口と言う怖モテの警部補だった。
鰐口という名の通り食らいついたら離れない。
ワニみたいな叩き上げの警部補だ。
その風貌も警察関係者というよりも反社会的勢力といった感じだ。
ボクたち家族らはリビングへ集められ、ひとりひとり事情聴取が行われていた。
本妻のレイラは遺体を見て気を失い寝室へ運ばれ休んでいた。
リビングにはアンティークな家具が並んでいた。
とてもではないがボクには手の出ない高級な家具ばかりだ。
クローゼットには家族写真が飾られてあった。
鬼堂豪のバースデーの時の集合写真だ。
おそらく家族写真だろう。
長男のほずみ、次男のカズヤそして本妻が父親の隣りで微笑んでいた。
もちろん父親以外はみんな作り笑いだ。
「じゃァ、ええっと、なんだっけ?」
鰐口警部補はボクの名前を覚えていないようだ。ボクのことを指を差して懸命に思い出そうとしていた。
「ボクは八神です。八神一です」
仕方ないので自己申告した。
「そうそう、八神君ね。キミは母さんが病気で手術代が必要になり、鬼堂邸へ借金をするため訪れたんだったね」
この質問も何度も繰り返された。
「ええッそうです」
何度も答えさせられてうんざりだ。
「八神君は、ええっと何番目の奥さんとの子だっけ?」
「はァ、三番目です」
恥ずかしくて視線を逸らせた。
「おいおい、いったい誰がオヤジを殺したんだよ。捕まってないって事はまだこの屋敷に殺人犯がいるってことだろう。なんとかしてくれよ。刑事さんよォ」
次男の鬼堂一八が場違いな声で喚いた。
金髪のヤンキーだ。
肩や腕には派手なタトゥがほどこされていた。
「はァどうも……」鰐口警部補も苦笑いだ。
「フフゥン、パパを殺した犯人はあなたじゃないの。カズヤ君?」
愛人の雲母アスカが応えた。可愛らしい顔をしているがかなりの毒舌家だ。
「な、なんでオレが?」
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