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81
「な、なんでオレが?」
一八はムッとして愛人の雲母アスカを睨んだ。
「フフゥン、ダイイングメッセージよ。あなたも見たでしょ。パパの手元に書いてあった数字の『81』を!」
愛人の雲母アスカは妖しく微笑んだ。
鬼堂豪の一番若い愛人で、まだ二十歳になったばかりの女子大学生だ。
小悪魔のように可愛らしいが裏で何をしているのかわからない。
元売れっ子キャバ嬢として働いていたのだが、鬼堂豪が金に任せて落としたそうだ。
「ぬうゥ、ダイイングメッセージ?」
次男の一八はムッとして聞き返した。
「そうよ。殺されたパパの手元には『81』って血文字で書かれてあったわ」
雲母アスカは意味深に微笑んだ。
「ふぅん、だから。それがどうしたんだよ!」
一八はふて腐れてそっぽを向いた。
「ほらァあなたの名前は『一、八』と書いてカズヤでしょ?」
笑顔で相手の弱味をついていった。
「チィッ、知るかよ。オレは『1、8』であって、『8、1』じゃねェよ!」
カズヤは不満げに喚き散らした。
「フフゥン、知らないの。アナグラムよ。ただの数字の入れ替えじゃないの?」
愛人のキララは親指と人差し指をクルッと入れ替えてみせた。
「はァ死ぬ間際に、わざわざアナグラムなんかで残すかよ」
一八はそっぽを向いたまま応えた。
「いずれにしても遺産相続が絡んでいるのは確かだ。家族の中に真犯人がいるんだろうな」
長男の鬼堂ほずみも眉をひそめた。
「うッううゥ……」
長男の言葉に緊張感が疾走った。
全員、疑心暗鬼だ。
だれも彼も怪しく思えてきた。
「……」なんとも重苦しい沈黙が宿った。
「ケッケケ、知っているか。ハジメ?」
不意に次男の一八がボクを指差してあざ笑った。
「え、なにがでしょうか?」
「遺体の第一発見者が、真犯人の確率が高いんだぜ。ケッケケ」
いやらしく笑った。
「ううゥッ、じゃァボクがあの人を刺して、第一発見者を装ったって言うんですか?」
「ああァ、それに八神一はダイイングメッセージの『8と1』が使われているじゃん」
カズヤは痛いところをついてきた。
「ううゥ……」
確かにそうだが、父親を刺したのはボクではない。
不意にリビングのドアが開いた。
美人警部補の石動リオと殺人現場には場違いな少年がひとりリビングへ入ってきた。
イケメンだが真面目そうな少年だ。
少年の頭にはカメラ装備のヘッドセットが備えつけられていた。
「よォなんだい。坊や。ここは遊園地じゃねえェんだ。遅くならないうちに帰りな!」
一八は少年の姿を見て戯けたように笑みを浮かべた。
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