3人が本棚に入れています
本棚に追加
不思議なことに、以前なら絶対に遭遇していた時間に紗綾に会わなくなった。
紗綾への苦手意識はもうないのに……
少し物足りない。
“歌う会”に入ってから、きっと、何か大きな変化が起こっている。
美々子が本屋で“ボイストレーニングの本”を探していたら、偶然にも有希子に会ったのも、その1つ。
中学を卒業してから交流が途絶えていたので、久しぶりの再会で少し気持ちが、はしゃいだ。
「部活?」
有希子が美々子の手にしていた本に目を留めて、尋ねてきた。
「うん。軽音同好会に入った。通称“歌う会”。私も文化祭で歌う予定だよ」
有希子は一瞬、目を丸くした後に、少し沈んだトーンで教えてくた。
「紗綾が学校を辞めたのを、知っている?」
「えっ!何で?」
驚いた美々子は咄嗟に聞いた。
「挫折かな……私は初めから、紗綾には、あの学校は無理だと思っていたんだ。紗綾の家って、おばさんも見栄っ張りなんだって、母が言っていた」
美々子は言葉もない。
(そうなんだ……)
頭に浮かぶ言葉はそれだけだ。
脳味噌が考える事を拒否している。
「そうだ、文化祭は他校生も入れる?」
「うん。招待するよ」
「私は参考書。もう、大学受験の準備。梓も1年生でレギュラー候補らしいよ。じゃあ、絶対に招待してね」
有希子も同じだ。
心に、紗綾はいなかった。
16歳は、モラトリアム。
だからこそ、好きなことを我慢しない。
美々子は歌う。
紗綾のお陰のような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!