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喜田はクラスメートのギャル3人に連行されて、前の車両に乗っている。
少し複雑だけど、美々子は1人でいたかったので、寧ろ良かった、と思うことにした。
ありふれた風景が瞳に映って過ぎていく。
美々子はドアの前を陣取って憂鬱な気持ちで外を見ていた。
すると、背後から声が聞こえる。
「ねぇ、君。ねぇ、ドアの前の君!」
そして美々子が不審げに振り向くと、目の前に紫のロン毛と緑のお洒落坊主が……
美々子は全ての憂いが吹っ飛んだ。
「射場、間違いない?」
「うん。君さ~校舎裏で俺と擦れ違う前に“アニソン”歌っていたよね」
1年生が3年生に話し掛けられるなんて尋常じゃない。
「多分……あの……でも……」
美々子は鯱張ってしまって倒れそうだ。
「単刀直入に言うね。俺たちのバンドでボーカルをして欲しい。熊沢と同じクラスだろ。彼奴はOKしてくれた。頼むよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!私、歌なんて歌えませんよ」
「嘘だ。僕、聞いたんだから、知っている。リズムが裏拍で、半端なく・凄く・上手い」
「それに声も澄んでいる。取り敢えず、持ち帰ってよ。良い返事しか聞かないけど……待っているよ」
そして終着駅に着くと、先輩2人は美々子の横を、すり抜けて降りていった。
のろのろと降車した美々子は一旦歩みを止めて立ち止まる。
自分の身に起こった出来事が信じられない。
「相良」
すると、喜田が美々子を見つけて寄ってきた。
後ろからギャル3人も付いてきている。
「どうしょう……ゴミ捨てに行ったときに、先輩に歌、聞かれた……で、ボーカルに誘われた……」
「嘘!凄い。運命じゃん」
「マジ!運命」
「ならサ~今、ここで、歌ってよ!」
異常な盛り上がりに、たださえ動揺している美々子は、おどおどしてしまう。
「おい!お前ら、待てよ。相良が困っているだろ~が。落ち着け。お前らだって、相良が急いで帰るのを知っているだろ。部活に入らないのには理由があるんだから……ちょっとは考えろよ。俺が代表して話しを聞いておくから、お前ら行っていいよ。パンケーキ、食いに行くんだろ。美々子は時間、大丈夫か?」
(運命……)
美々子は頷く。
「じゃあ。今度、絶対、歌、聞かせてよ~」
すると、ギャル3人は察しがいい。
チラチラと指先を振りながら、パンケーキを食べに歩きだした。
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