歌う

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 そして、父親に遅くなると、ラインをいれると、喜田と二人きりでファーストフード店に落ち着く。  少し歩いたお陰で動揺も治まって、美々子も今は冷静だ。 「音楽には興味あるんだよね。タカに“歌う会”って聞いて、興奮していたように見えたけど……部活も、やろうと思えば出来るって言っていたし。何、悩んでいるの?」  美々子は紗綾のことを、今まで誰にも打明けられなかった。  大袈裟に考えている、と笑われるのがオチだと勝手に決めつけていたからだ。    けれども、そんな考えは捨てようと思う。    運命……  それは……  一歩踏み出しだす選択。    美々子は、思い切って喜田に打明けた。    そして喜田は時々、険しい顔を見せながら黙って聞いた後に、真面目な顔で口を開いた。 「俺さぁ、チビだろ。で、さぁ……小学校の頃って、大体、身体的なことで馬鹿にされるんだ。それで勉強だけは、いつもクラスで1番」    喜田は、そこで1度、話しを切ると、アイスラテを一口飲んでから、テーブルに置かれたバスケットのポテトフライを摘まんだ。    話しを聞いていた美々子もストローを咥えてアイスティーで喉を潤す。 「でもさ、俺も駄目な奴だったから……中学で調子にのるわけ。今度は自分が勉強を出来ない奴を馬鹿にするの。だけどさ……2年生にときのクラスで、俺に何を言われても平気な奴がいてさ。それがタカ。熊沢だよ。小学校からギターを弾いていて、自分に自信があるんだよ。好きなことに夢中になっている奴には敵わないわ。それで、俺も寄せ木細工を見つけたわけ。美々子はさー小学校のときに音楽に先生に才能がある、って言われたようなもんさ。やりなよ。俺も聞きたい」  美々子でも喜田が何を言わんとしているか解る。 「うん、考える」 「そっか……それでさ、その、紗綾?て友達からはラインとかも続いているの?」 「ラインは……最近は来ないかな。43分に乗るようになった頃は、来ていたけど……コレ」  美々子はスマホを取り出して喜田に見せた。 【どうして、駅にいないの?私のこと避けているんでしょう。でも、無駄だから】    5件の同じメッセージが続いて、それに対して美々子は毎回、違うスタンプでゴメン、とだけ返している。 「もしさ、その娘に知れたら、俺に言いなよ。チビだけど男だからさ、俺が間に入るよ。以前の物騒なラインの文言は残してある?」 「……一応」 「嫌だろうけど、消したら駄目だよ。それ、完全に脅迫罪だから……いざとなったら親に見せるんだ。心配をかけたくない気持ちは理解できるけど、知らないで、辛い思いをするのは、お父さんだから」 「ありがとう」  やっと笑えた美々子は、ポテトに手を伸ばした。      
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