歌う

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 警戒していても……  警戒するから……  どちらにしても、自宅までの最寄り駅が同じなのだ。  会わない方がおかしい。 「美々子」  声を掛けられたのは支線駅のホーム。  相良美々子は今日も紗綾(さや)と遭遇してしまった。  お嬢様学校の制服に身を包んだ紗綾は薄らとメイクをしている。   高校に入ってからの紗綾は急激に大人びて見違えるようだが、美々子に対する高圧的な態度は変らない。 「どう?学校。工芸って男子多いよね。カッコイイのいる?」 「どうだろう……クラスの男子は普通かな。でも、女子は皆、私と違ってお洒落。制服ダサいのにね。都市部の中学校出身の()はやっぱり垢抜けているかな」 「へぇ~そうなんだ……女子のことは聞いてないけど」  剣呑な物言いの紗綾は面白くなさそうだ。  会ったこともない女子にライバル心を燃やしている。    美々子は青空の中に、ほんわかと浮かぶ、綿雲を眺めて気分を紛らわしていた。  そして、乗り入れてきた電車に乗込むと、やはりローカル線は空席が目立つ。  美々子は嫌でも紗綾と並んで座わるしかない。 「いつも、この時間だけど、部活は?入らなかったんだ」 「……って言うか、入れないよ」 「相変わらず、家のことを理由にしているんだね。父子家庭で家事していま~すって美々子の“売り”だもんね。そんなに良い子に思われたいんだ……」  嫌な言われ方だ。  けれども、会う度に言われると、紗綾の言葉こそが真実だと思えてきて、 自己嫌悪に陥ってしまう。  確かに、父親は美々子に家事を強要しているわけでもないし、祖父母も近くに住んでいる。  それに、クラブ活動は自主的に参加するもので、皆勤を目指す必要もない。  美々子は何も言い返せなくて俯いているが、隣に座る紗綾の苛立ちが伝わってくるようで落ち着かない。    そして、チラッと様子を伺ってみると、紗綾は綺麗にネイルが塗られた爪を満足げに見ていた。                            
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