18人が本棚に入れています
本棚に追加
9 歌声は、戦火に響く
ドナはラーク国防軍事総長と共に、軍事放送局棟に登った。国が誇る随一、100階建ての建物はとても高く、隣の東大国まで見渡せた。
マイクを持つ。胸が打ち震える。
みんな、聞いて。お願い! 私の想いを聴いて。
ドナの歌声が響く。
その歌声は、聞くものの身体を貫いた。
その光景を見た軍部の者は後に、光の矢が走ったと語った。
泣きながらドナが歌う歌は悲しみを帯びた。
歌声を耳にした敵機のパイロット達も、敵国軍部司令官も、戦意と悪意が喪失した。
後に残ったのは、哀しみ。
高く、低く響く歌声にシェルターからも人々が出てきた。
一様に涙を流す。
自国も敵国も皆、涙を流した。
泣くことによって人々は癒やされた。
双方の爆撃が止まった。
ラーク国防軍総長は自分が思い描いた結果ではないことに慌てた。だが、そんなことどうでもいいと思った。
「ラーク閣下、どうしたことか、東大国から停戦のメールが入りました」
一人の少女の歌声に驚きながら、ラークは短く答えた。
「直ぐに応えろ。無用な戦は止めようと」
◇ ◇ ◇
「ドナ!」
ドナの前にユベール博士が現れた。
「私の癒やしの歌姫」
ドナは、何も答えずにユベール博士に飛びついて、ユベールを抱きしめた。
「帰ろう、ユベール。私達の家に」
ユベール博士も深く頷く。
私達は、また家に帰る。
そしてまた明日、窓を開けて歌うんだ。
……愛の歌を。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!