3 心地よい歌声は街を渡る

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3 心地よい歌声は街を渡る

 翌日も快晴だった。  朝、目覚めたドナは伸びをすると勢いよくベッドから飛び降りると、大きな窓を開ける。  ユベール博士の家は国から支給される郊外の大きな戸建てでも、高級なペントハウスでもなく、小さな古いアパルトメントだった。  ユベール博士はドナに家を選ばせてくれた。  ドナは人との距離が近いこのアパルトメントを選んだ。裏通りの商店が立ち並ぶこの景色をドナは気に入っていた。  通りに面しており、今日も色々な人種の人たちが働いている。 「おはよう」  窓から身を乗り出し、声をかけると道行く人々がドナに手を振った。 「おはようドナ!」 「良く眠れたかい?」  人々に手を振り返して、ドナは元気いっぱいに答える。 「最高!」  そして、即興の歌詞とリズムで歌い始めた。  大丈夫  悲しくなる時だって  上手くいかない時だって  そんな日があってもいいじゃない  上を向いて お日様を見てよ  ちょっとだけ笑って  ほら貴方の笑顔で 誰かもつられて笑ってる  大丈夫、きっと大丈夫  ずっときっともっと 貴方は強くなれるから  ドナの歌声に、アパルトメントの窓があちこち開いて人々が顔をのぞかせる。  通りの人々も立ち止まってドナの歌声に耳を傾ける。 「ドナちゃんの歌声で夫婦喧嘩も少なくなったわ」  「ドナの歌を聞くと腰の痛みや膝の痛みが無くなるんだよね」 「スクールに行きたくないって言う息子がね、ドナちゃんの歌を聞いた後、バッグを持ってスクールバスに乗り込むのよ」 「ドナの歌声を聞いたら熱が下がったよ」  人々の声にドナが嬉しそうな笑顔を見せた。 「ありがとう。良かったわね、私もすごく嬉しい」  ドナの笑顔に人々が自然と笑顔を見せる。 「あの子がここに来てから、街が明るくなったわね」 「あの子はこの街に降り立った天使だよ」    建物の影に停めた車から、その様子を注意深く観察していたのは、黒い軍服を着用した数人の軍人だった。彼らは無線で何事かを呟き、どこかへ報告を終えるとあっと言う間に走り去る。  自分のアパルトマンの部屋からその様子を、望遠鏡で眺めていたユベール博士は、望まない未来が近づきつつある事を感じた。
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