18人が本棚に入れています
本棚に追加
3 心地よい歌声は街を渡る
翌日も快晴だった。
朝、目覚めたドナは伸びをすると勢いよくベッドから飛び降りると、大きな窓を開ける。
ユベール博士の家は国から支給される郊外の大きな戸建てでも、高級なペントハウスでもなく、小さな古いアパルトメントだった。
ユベール博士はドナに家を選ばせてくれた。
ドナは人との距離が近いこのアパルトメントを選んだ。裏通りの商店が立ち並ぶこの景色をドナは気に入っていた。
通りに面しており、今日も色々な人種の人たちが働いている。
「おはよう」
窓から身を乗り出し、声をかけると道行く人々がドナに手を振った。
「おはようドナ!」
「良く眠れたかい?」
人々に手を振り返して、ドナは元気いっぱいに答える。
「最高!」
そして、即興の歌詞とリズムで歌い始めた。
大丈夫
悲しくなる時だって
上手くいかない時だって
そんな日があってもいいじゃない
上を向いて お日様を見てよ
ちょっとだけ笑って
ほら貴方の笑顔で 誰かもつられて笑ってる
大丈夫、きっと大丈夫
ずっときっともっと 貴方は強くなれるから
ドナの歌声に、アパルトメントの窓があちこち開いて人々が顔をのぞかせる。
通りの人々も立ち止まってドナの歌声に耳を傾ける。
「ドナちゃんの歌声で夫婦喧嘩も少なくなったわ」
「ドナの歌を聞くと腰の痛みや膝の痛みが無くなるんだよね」
「スクールに行きたくないって言う息子がね、ドナちゃんの歌を聞いた後、バッグを持ってスクールバスに乗り込むのよ」
「ドナの歌声を聞いたら熱が下がったよ」
人々の声にドナが嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがとう。良かったわね、私もすごく嬉しい」
ドナの笑顔に人々が自然と笑顔を見せる。
「あの子がここに来てから、街が明るくなったわね」
「あの子はこの街に降り立った天使だよ」
建物の影に停めた車から、その様子を注意深く観察していたのは、黒い軍服を着用した数人の軍人だった。彼らは無線で何事かを呟き、どこかへ報告を終えるとあっと言う間に走り去る。
自分のアパルトマンの部屋からその様子を、望遠鏡で眺めていたユベール博士は、望まない未来が近づきつつある事を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!