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4 国防軍事研究所にて
「これが例の少女の、音源です」
「解析データは?」
「後小一時間で出力できるかと。閣下、その間にこちらの映像をご覧ください」
天井から大きなスクリーンが降りてきた。
そして、ベランダで歌っているドナと街の人々の様子が鮮明に写し出された。
ドナの歌声を聞いて、ある者は腰に巻いていた腰ベルトを取り外して、背筋をピンと伸ばした。
ある者はついていた杖を折りたたんで鞄にしまい、元気に歩き始めた。
咳込んでマスクをしていた者は咳が止まり、マスクを外した。
その様子を眺めていた国防軍事研究所の職員たちは驚いた。
「どういう事だ? 確かに心地よい歌声であるけれど、これ程までとは」
閣下と呼ばれたラーク国防軍事総長は、自慢のあごひげを撫でながら、じっとスクリーン上のドナを見つめる。
「この少女の現在の所有者は?」
「ユベール・オルジュ博士、当施設における、アンドロイドプロジェクトの主任研究員です。若いですが研究熱心で、アンドロイドの心の取得に成功しています」
国防軍事研究所長のマービンが答えた。
「この少女は使える。至急呼び寄せろ。それから、アンドロイドの改造チームを集めておけ。無論、ユベール・オルジュはチームに入れるな!」
マービンは複雑な表情を浮かべたが、すぐに押し隠してラーク国防軍事総長に頭を下げた。
そして言葉に出さず、顎と目で側に控えていた部下の職員たちに合図する。
足音一つ立てず数人の部下たちが部屋から出ていった。
部屋にはラークとマービンだけが残った。
「私も、こんな事をしたくはないのだがね。これほどまでに迅速かつ、有効な手立てはない」
しばらくして口を開いたラーク国防軍事総長の言葉にマービンは押し黙った。
国防軍事研究所長としての役目と、息子のように目をかけている若き研究者、ユベールの気持ちを考えた。
そんなマービンにラークが静かに問う。
「不服そうだな、マービン。東大国との開戦だ。間もなく我が国にも戦火が訪れる。何百万人というこの国の者が殺される。一人のアンドロイドと何百万と言う国民の命、君はどちらを救いたいか。自分の責任を考え給え」
「閣下はドナを歌声音響兵器に改造するおつもりですか?」
マービン所長の問いかけには答えず、ラーク国防軍事総長は立ち上がった。
「良い結果を期待している。一刻の猶予もない」
そう言って、カツコツ、とブーツの音を立て、部屋を出ていった。
残されたマービンは、机に両手をついて項垂れた。
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