5 夜中の逃避行(ドライブ)

1/1
前へ
/9ページ
次へ

5 夜中の逃避行(ドライブ)

「ドナ。これから、ドライブに行かないか?」  ユベール博士がドナをドライブに誘ったのは、とっぷり日が暮れてからだった。  もう夜なのに……。  ドナは普段と違うユベール博士の誘いを不思議に思ったが、何も言わずに同意した。 「何日かの旅になるからね。大事なものだけ持って」  頷いてすぐに準備すると、二人はアパルトメントを出て車に乗り込む。  すぐに車を何処かに止めると、博士は止めてあったバイクに鍵をいれる。  ドナにヘルメットを渡すと、自分も手早く身に着け、二人はバイクで走り出した。  風を切って道路を進む。  舗装が粗い道路は、ガタガタと大きな振動したがドナは怖いとは思わなかった。  ユベール博士にぎゅっと抱きつけることが嬉しくて、でも気恥ずかしくて、永遠にこのままで居られればいいのにと思う気持ちと、早く到着地に付けばいいと思う気持ちがない混ぜとなった。  そのくせ、郊外のロッジに着いたときには心底ガッカリした。  ユベール博士はバイクを降りると、ドナに優しく手を貸してバイクから下ろした。 「ユベール博士……ここ、どこ?」  ドナの質問に、ユベールは優しく微笑んだ。  ドナのヘルメットを脱がし、自分のヘルメットもバイクに閉まった。 「私たちだけの秘密のロッジだよ。ずっと忙しかったし二人でここでゆっくり過ごそうか、さぁ、おいで、ドナ」  ユベール博士がドナをロッジに促す。  恐る恐る足を踏み入れたドナは笑顔になった。  小さいけれど、小綺麗で冷暖房がある。  そして、小さな暖炉もあった。 「狭くて申し訳ないけれど……大丈夫かい?」  ドナは小さく頷いた。  そして、ユベールの顔をじっと見つめる。 「どうしたの? ドナ。知らないところに来て、不安になっちゃったのかい?」  笑顔でドナの顔を覗き込むのはいつもの優しい博士。  なのに、ドナは違和感と不安を覚えた。 「ユベール博士、どこかに行ってしまうの?」  心の声が漏れて口に出た。  一瞬、ユベール博士の顔が歪んだように見えた。  すぐに博士はいつもの笑顔を浮かべて、不思議そうにドナに言う。 「何? ドナは僕から離れたくなっちゃった? 好きな男の子でも出来たかな? それは、少しだけ寂しいなぁ。もう少し、ドナのお父さん役をやれると思っていたのだけれど……」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加