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5 夜中の逃避行(ドライブ)
「ドナ。これから、ドライブに行かないか?」
ユベール博士がドナをドライブに誘ったのは、とっぷり日が暮れてからだった。
もう夜なのに……。
ドナは普段と違うユベール博士の誘いを不思議に思ったが、何も言わずに同意した。
「何日かの旅になるからね。大事なものだけ持って」
頷いてすぐに準備すると、二人はアパルトメントを出て車に乗り込む。
すぐに車を何処かに止めると、博士は止めてあったバイクに鍵をいれる。
ドナにヘルメットを渡すと、自分も手早く身に着け、二人はバイクで走り出した。
風を切って道路を進む。
舗装が粗い道路は、ガタガタと大きな振動したがドナは怖いとは思わなかった。
ユベール博士にぎゅっと抱きつけることが嬉しくて、でも気恥ずかしくて、永遠にこのままで居られればいいのにと思う気持ちと、早く到着地に付けばいいと思う気持ちがない混ぜとなった。
そのくせ、郊外のロッジに着いたときには心底ガッカリした。
ユベール博士はバイクを降りると、ドナに優しく手を貸してバイクから下ろした。
「ユベール博士……ここ、どこ?」
ドナの質問に、ユベールは優しく微笑んだ。
ドナのヘルメットを脱がし、自分のヘルメットもバイクに閉まった。
「私たちだけの秘密のロッジだよ。ずっと忙しかったし二人でここでゆっくり過ごそうか、さぁ、おいで、ドナ」
ユベール博士がドナをロッジに促す。
恐る恐る足を踏み入れたドナは笑顔になった。
小さいけれど、小綺麗で冷暖房がある。
そして、小さな暖炉もあった。
「狭くて申し訳ないけれど……大丈夫かい?」
ドナは小さく頷いた。
そして、ユベールの顔をじっと見つめる。
「どうしたの? ドナ。知らないところに来て、不安になっちゃったのかい?」
笑顔でドナの顔を覗き込むのはいつもの優しい博士。
なのに、ドナは違和感と不安を覚えた。
「ユベール博士、どこかに行ってしまうの?」
心の声が漏れて口に出た。
一瞬、ユベール博士の顔が歪んだように見えた。
すぐに博士はいつもの笑顔を浮かべて、不思議そうにドナに言う。
「何? ドナは僕から離れたくなっちゃった? 好きな男の子でも出来たかな? それは、少しだけ寂しいなぁ。もう少し、ドナのお父さん役をやれると思っていたのだけれど……」
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