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7 魔法の鍵(ディンプルキー)
「ユベール博士……」
(好きです。博士。好き……)
言葉に出せない想いが溢れて、ドナは泣いた。
ドナの涙を見て、ユベールは我に返った。
「あぁ、ごめんな、ドナ。不安にさせたな。大丈夫だよ、ドナは必ず僕が守るから」
(違うの、博士。私があなたを守りたいの)
「ドナ、良く聞いて。奴等は此処すらすぐに見つけるだろう。僕はきっと奴等に監禁される。その時、君を守るのは君だ」
そう言ってユベール博士はドナの首にハート型のペンダントをかけた。
ハート型のペンダントトップはユナの胸の中心辺りにかかる。
「そのアクセサリーは君のディンプルキーだ。大切な記憶と光景を組み合わせた複雑な君の鍵だよ。その記憶は、誰にも言ってはならないよ。記憶と言葉の組み合わせ。これが君を守る。奴等にも絶対に解けない」
真剣な瞳でドナを見つめるユベール博士の瞳を見ている内に、ドナは気持ちが溢れ出すのを感じた。
ユベール博士の両頬に手を当て、自分の方に向けさせると、静かに口づけた。
一瞬体を強張らせたユベールだったが、ドナの熱い口づけに、ドナを抱きしめた。
「ユベール博士……、好き。好きです」
抱きしめられた事で思わず出た。
言葉にするはずがなかった想い。
ドナに掛けたペンダントトップが輝く。
ディンプルキーが完成したようだ。
ドナを抱きしめながらユベールは思った。
国の奴等は自分とドナが恋に落ちているとは思いもしないだろう。
奴等が見ていたのは親子の絆で結ばれた二人の姿だ。それが、ドナを守る鍵になるとはね。
嬉しいような悲しいような。そして誰よりも愛おしい気持ちを抱えて、ユベールは一際強くドナを抱きしめた。
その時、遠くで爆音がした。
ユベールとドナは慌てて外に飛び出す。
遠く、夜空の一角が赤く爆ぜている。
街が爆撃を受けたようだ。
車が乗り込んで来た。
国防軍事研究所の車だった。
「逃げろ! ドナ。僕に構わずに!」
車から降りてきた数人が、ユベール博士を組み敷いた。
「いやぁぁぁぁ!!!」
ドナの悲鳴が響く。
「ドナ、逃げろ!」
ドナの足は動かない。
二人は手足と口を縛られ、車に押し込まれた。
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