8 国防軍事総長との取り引き

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8 国防軍事総長との取り引き

 ドナが目覚めた時、眼の前に居たのはユベール博士ではなかった。 「体調はどうだね? 手荒な真似をして申し訳なかった。私はラーク・デイリー。この国の国防軍事総長だ」  ドナは手足と口の縛りが無くなっているのに気づいた。  すぐさま立ち上がる。 「ユベール博士は?」 「別の部屋に居てもらっている。彼は残念ながら、我々の計画に水を差すのでね。寝ている間に君を改造しようとしたのだが、どうしても君のプログラムの改造ができなかった。君には複雑な鍵がかけられているようだね」  ドナはユベールが心配でならなかったが、ここで取り乱せばディンプルキーがユベール博士だと気づかれるかも知れないと思った。 「だとしたら、どうするの?」  努めて冷静に問い返す。 「この国が爆撃を受けたこと、君は知っているだろう。我々はもはや君の改造などどうでもいい。君は改造しなくてとそのままで兵器になり得ると、解析データが示している。君の声は癒やしにも、兵器にもなり得る。兵器としての君の歌声を貰えれば、無事にユベール博士を戻すと約束しよう」 「本当に? 本当にユベール博士を無事に戻して貰えるの?」  ドナの問いに、ラーク国防軍事総長は薄く笑った。 「あぁ。私の名に誓って約束しよう。私はこの国をそして、国民を守らねばならない。君は、素早らしい癒やしであり、恐ろしい兵器でもある! さぁ、君の狂気の旋律を敵地に響かせるんだ」  ラークの言葉にドナの心から血が吹いた。  今まで、自分を兵器だと思ったことがなかった。  アンドロイドだと言うことさえ、考えないでいた。それは、ユベール博士や街の人々がドナを人間として受け入れてくれたからだった。 (私は、兵器なの? 私の歌は狂気の旋律なの?)  自分の歌声が人を癒やす物ではなく、人を傷つける物でもあったことに、ドナの体が震え始めた。  ──ドナ、君の歌声は人を慈しみ癒やすものだ。決して、決して、兵器などではない! いつもの通り、君の歌声を届けるんだ!  ドナの頭の中に突然ユベール博士の声が響いて、ドナはハッとした。 「ラーク国防軍事総長、私を……私を軍事放送施設へ連れて行ってください」  ラーク国防軍事総長はまず、国民を国の地下シェルターに避難させた。  地下シェルターは全国民を守れるほどの広さを誇る。 「我が国民は、誰一人、死なせない」  ラーク国防軍事総長が呟く。  ──誰も死なせない。東大国軍だって。  ドナも胸の内で一人決意する。
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