1 ユベール博士とドナ

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1 ユベール博士とドナ

「君は素晴らしい子だ。私の最高傑作だよ。皆が君に魅了されるだろう」  そう言ってユベール博士はドナの髪を優しく撫でた。  ドナは生まれた時からユベール博士と共に暮らしている。両親はいない。両親の代わりにユベール博士がドナを慈しみ、愛してくれた。  人を思いやる温かく優しい感情を教えてくれたのも博士だった。  ドナは歌う事が好きだった。   ドナが歌うと博士が喜んでくれたから。  初めて人前で歌ったのは街中だった。  博士に連れられて行った病院で。  何気なく歌っていたドナの歌声に、人が集まってきて聴き入った。  涙を拭う人もいる。  歌うことで、涙を流す人がいることにドナは戸惑った。  ユベール博士は優しい笑顔でドナに説明した。 「ドナの歌声が悲しいから泣くのではないんだよ。人は感動した時や嬉しい時でも泣くんだ。ドナの歌声は人に癒やしを与えるんだよ」  ユベール博士が褒めてくれるから。   元気のない人々が元気になってくれるから。  ドナは色々な旋律を組み合わせ、自由に歌う。  マイクを通さなくても、家のベランダから歌うだけで高く低く、ドナの歌声は響く。  すると、人々は足を止めて歌声に聞き入った。  郵便配達のお兄さん。  花屋の女将さん。  街を歩いている御婦人や遊んでいる子供たちまで。 「ドナの歌声にはヒーリング効果があるんだよ」  ユベール博士はドナの側で、その様子を満足そうに眺めている。  こんな穏やかな毎日がずっと続いていくのだろうとドナは思った。  父のような、兄のような頼れる存在。  最近はユベール博士の笑顔を見ると、胸がときめく。  ユベール博士のしなやかな指が、自分の髪を撫で、いたずらに髪を絡める時。  頬に手を当てて、自分を見つめる時。  大好きなのに、息苦しい。  ユベール博士に飛びついて抱きついたり、盛大に頬にキスをすることができなくなった。  大好きなユベール博士に対して、以前とは異なった感情を抱き始めた自分にドナは戸惑った。  けれど、それをユベール博士に伝えることもできず、どうすれば以前のように素直に甘えられるのか、考えても考えても答えは思い浮かばなかった。
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