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まるで頁を締め括るような余韻を残してアウトロを弾き終わると、風間はゆったりとした動作でギターを背負い直した。
とんとんと俺の右肩を軽く叩いて、室外へと続く扉を指差す。
歩き出しながら、風間は徐に自分が羽織っていたオイルドジャケットを脱ぎ俺の肩に掛けた。
「自分について、何もかもとっくに諦めたと思ってた。でも、心の底で音楽だけは諦めきれてなかったんだな」
斜め前を歩く風間の横顔はどこか晴々としていた。
「お前のおかげで思い出せたよ」
重い扉を開いて通路を歩いていく、振り向いても警備員が追ってくる気配はなかった。
階段を降りて玄関ホールに辿り着いたとき、建物の外が騒がしいことにやっと気づいた。
正面玄関を抜けると、建物の周りを取り囲むように集まっていた人々がこちらに向かって拍手を送ってくる。
風間がギターを掲げて見せると、民衆はわあっと大きな歓声をあげた。
「なぁ、リクエストはあるか?」
ギターを構えた風間が俺にそう言う。
鳴り止まない歓声の中で俺が耳打ちすると、彼は破顔した。
「随分とマイナーな曲、選ぶんだな」
これまで散々顔を合わせてきたというのに、今更になって頬がかっと熱くなる。
「わかったよ」
彼がギターを爪弾くと、周囲の空気が震えた。
あの時から感じていた行き場のない思いは、音の波に運ばれて散っていったのだとそんな事を思った。
完.
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