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彼女を駅まで送ると俺はそのまま踵を返して風間の家へと再び車を走らせた。
初めて来た時と同じ、一台もすれ違う対向車はなかった。
運転をしながら歳の離れた姉のことを思い出していた。
姉は何年も前に持病が悪化して死んだ。
どうか生き延びてくれと何度も祈ったが、今となっては長年憧れてきた風間の落魄れた姿を見ないまま死んで良かったのかもしれないとすら思っていた。
「……馬鹿げてる」
ひとりきりの車内で、ぽつりとそう呟いた。
年々著作権の取り決めが厳しくなり、音楽を聴いたり本を読むだけで税金をとるようになってから、人々は無料で楽しめるAI生成のエンタメ以外は見向きもしなくなった。
CDを持っているだけで「いつの時代の人間だよ」と小馬鹿にされる。
風間が作り上げてきた音楽もまた、この時代にとっては取り残された化石同然なのだろう。
アクセルペダルを踏む足に力がこもっていき、車は次第に加速して行く。
自分の中に湧き起こる思いが怒りなのか悲しみなのかさえ、もう分からなかった。
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