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ハラキリが執行される日。
裁判所の一室で、俺は用意された白装束に身を包んで撮影班の前に立った。
目の前に設置されている大型モニターには、ハラキリの生配信を観ている連中が書き込んだコメントが字幕になって流れていた。
「言い残すことはありますか」
進行役の男がそう告げてマイクを向けてくる。
俺は深呼吸をしてから顔を上げ、カメラを真っ直ぐに見据えた。
「自分がした事に後悔はありません」
目の前に立つ進行役は俺の言葉を聞いて、小さく鼻で笑って見せた。
「確かに風間がしたことは最低だし、許される事じゃないと思う。でも許す許さないを決めるのは当人達であって、俺達じゃない」
カメラマンも音声も、誰もが呆れたような表情を浮かべていた。
『世間が許さない』と、目の前のモニターにコメントが流れる。
「あんた達は世間じゃない。外野だろ」
俺は向けられているマイクを奪い取ると、カメラの方を指差した。
「火の粉がかからない遠い場所から油を注いで、ただ面白がって見てるだけ。それ以上でも以下でもない」
俺の発言が気に食わなかったのか、画面には幾つもの批判的なコメントが流れてきていた。
「やり直す機会さえ与えず、存在自体を否定するなんて……こんなやり方、間違ってる」
どんなに言葉を尽くしても伝わらない、もう絶望しかなかった。
『さっさと腹切れよ』
『時間の無駄』
『最期の悪足掻き、乙wwww』
最後に誰かから掛けられた言葉が、これか。
俯いて黙り込んだ俺の肩を掴んで、進行役が早口に言う。
「時間切れですよ、今すぐやってください」
手渡されたプラスチック製の刀を持って、俺は両膝を床につけた。
何もかも諦めて襟合わせに手をかけた、その時だった。
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