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扉が勢い良く開け放たれて視線をやると、ギターを背負った風間と目が合った。
「さっきそこの警備員に止められそうになったんだけど、あいつにもハラキリさせんの?」
肩越しに振り返りながら、風間が呑気な口調でそんな事を言う。
背負っていたギターを肩から降ろしてカメラの前に立ちはだかると、途端に彼は弦を掻き鳴らした。
歌声が、室内に響き渡る。
突風が吹いた瞬間のように、誰しもが瞬く間に惹きつけられる。
それはまごうことなく、彼の歌声だった。
反応を示してはならないが、止めないわけにもいかないと一瞬焦りを見せていた撮影班達も
カメラを向けたまま、彼の歌声に思わず圧倒されている様子だった。
何年振りに聴いただろうか。
彼の歌声はあの頃と変わらず、心の奥深くにまで響き渡るような、どこか特別なものを宿していた。
握りしめていた手から力が抜けて、刀が床に転がる。
風間が歌い始めてから、目の前のモニターに文字はひとつも流れてこなかった。
姉が言っていた「音楽に愛されている」という言葉に嘘はなかったと、今なら素直に認められる。
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