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俺が応えずにいると、男は「邪魔だ」と一言告げて井戸の側にかがみ込んだ。
野菜を載せたざるを置くと、すくっとその場から立ち上がる。
間違いない、風間隼人だ。
俺はひっそりと息を呑んだ。
風間は安っぽいサンダルをペタペタと鳴らしながら歩くと、家の縁側でそれを脱ぎ捨てた。
雨戸を開けっ放しにして、風間は腰を叩きながら家の奥へと消えていく。
暫くの間俺はその場に立ち尽くしていたが、やがて観念して家の中に入った。
室内はお世辞にも綺麗とは言えない状態だったが、壁や柱など人の手によって修復された形跡があった。
風間は麦茶の入ったコップをふたつ、テーブルの上に置いた。
「処刑人とかなんとか言ったよな、あんたのそれ」
「………」
「俺がなんかやらかしたら、すぐ死刑台送りにするつもりなんだろ」
畳の上に胡座をかいて座り、風間は麦茶を一気に飲み干した。
着ているTシャツの裾を引っ張り、額から流れる汗を拭う。
かつて憧れていたミュージシャンは今では見る影もなく、目の前にいるのは唯のくたびれたおっさんだ。
「……顔に出やすいな、あんた」
風間は空になったコップをずいっと俺の方にかざしながらそう言った。
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