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ーーーそれから半年間もの間、俺は風間の動向に注視した。
毎日畑の作物に水やりをしたり、雑草をむしったり、彼は質素な暮らしをひたすら続けていた。
家に入るといつも通り水を一杯飲み干し、風間は換気扇の下に吊るしてあるベーコンのようなものをフライパンでさらに軽く炒めたものを持ってきた。
「干し肉だ。野菜ばかりじゃ飽きるからな」
そう言うと、どかりと胡座をかいて座り込む。
こんがり焼けた皿の上の肉を箸でつまむと風間は自分の口へと放り込む。
この男は俺が一口も食べないと分かっていても決まって毎食二人分の食事を用意する。
介錯人の決まりとして、罪人に出された食料や飲み物は一切口にしないというものがある。
監視に専念する事と、毒を仕込まれる恐れがあるからなのだろう。
バックパックに詰めて来た携帯用の小型冷蔵庫内のゼリー飲料も底をつきそうな状況だった。
監視を始めると大概の罪人は数ヶ月で食料が尽きて盗みを働くか、孤独に苛まれて自殺をするかのどちらがだった。
畑の作物や保存食で、こんな長い期間食い繋ぐとは誰が予測できただろうか。
目の前に置かれた皿に盛られた肉から、味付けに使ったのだろう醤油の香ばしい匂いが漂ってくる。
息を詰めていると、腹の虫がぐるるると鳴った。
風間は胡座を崩しながら肉をもう一切れ口に運び、にやりと片側の口の端を吊り上げた。
俺は箸を引っ掴むと、皿の上の肉を口の中に運んだ。
程よく塩味がきいていて噛めば噛むほどに旨味が滲み出る、癖になるような旨さだった。
「……うまっ」
ぽつりと口から漏れ出した声に思わず右手で口元を覆うと、風間が眉をくいっと持ち上げて自慢げに笑って見せる。
「酒が、欲しくなるよな」
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