僕が人魚姫に贈る水色の歌

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Page 2 「まけたいの?」 「そういうわけじゃ…ないんだけど」 「はっきりしないわねー。アクアは、まけるなんてゆるせないわ。しょうらいは、オリンピックのひょうしょうだいよ。てっぺんよ。ほかはぜんいんアクアにひざまずけばいいのよ」 「女王様みたいだね…」 「じょおうじゃなくて、にんぎょひめよ。アクアは、だれよりもはやくおよぐのよ」 アクアは年少さんだから、まだスイミングスクールに入ったばかりだったけど。でも時間の問題よ。 アクアは天才なのよ。努力する天才なんだから! 「泳ぐの、好きなんだね」 「すきよ」 アクアは、ふふんって笑った。 「だいすきよ。でも、だいすきなだけじゃだめよ。しょうりしなきゃ、いみがないわ。さんかすることにいぎがある、なんておおうそよ。まけてもいいやつは、たたかわなきゃいいのよ。かちたいやつだけがたたかって、そのなかでかつからいみがあるのよ」 「……負けたひとの、努力は無駄なの?」 「ムダじゃないって、そのひとがおもえればムダじゃないわよ?かってもまけてもおもしろいなら、すてきなしゅみになるわ。でも、アクアはそうじゃない。かたなきゃきがすまないだけよ。てっぺんじゃないアクアなんて、アクアがゆるせないわ!」 「そう」 「はんのううすっ!!」 くす、ってその子が笑った。 この子が笑ったの、初めて見たかも。 …アレ? どーして、アクアほっぺたあついのよ!? 「ちょっと!!なにがおかしいのよっ!」 「おかしくないよ。泳ぐのが大好きで、オリンピックの表彰台(ひょうしょうだい)って、すてきな夢だなあって思ったんだ」 「そーよ。すてきだなんて、あたりまえよ」 でも、アクアは気が付いた。 「あんた、あたまがかんけいないゆめが、あるんじゃないの?」 「え…?」 その子のお顔が、かーっと赤くなった。 「…ある…けど…」 「なによ。アクアはいったわよ。あんたもいいなさいよ」 「でも…ダメだと思うから…」 「ダメかどーかなんて、やってみなきゃわかんないでしょっ?…で、なによ」 その子は、アクアがイライラするくらい迷って、やっと小さな声で言った。 「……歌手…」 「…………………………………」 アクア、(だま)っちゃった。 この、もそもそしゃべる感じの子が、歌手!? 「バラードとか?」 「……ロックミュージシャン…」 「ボーカル?」 「……うん」 「…………………………………」 似合わない!かなり似合わないわっ!! 「あはは…似合わないよね」 「に、にににあわないとか、アクアはまだなにもいってないわよっ!…ってゆーか」 アクアは、ビシィ!ってゆびさした。 「うたってみなさいよ」 「え…?」 「アクアがおきゃくさんだい1ごうになってあげるわ。かんしゃしてよね」 「あの…はずかしいんだけど……」 「はずかしいいいいい――――!?」 アクアは、自慢(じまん)の水色の髪を、きーってかきむしりたくなった。 「だれにもきかせないんなら、ボーカルじゃないでしょ────っ!!」 「ただの夢なんだけど…。ダメっぽいから、言ってみたの君が初めてだし」 ……そうなんだ。 初めて、教えてくれたのが、アクアなんだ。 アレ…? やっぱり、アクアのほっぺた… 「あかくなんかならないわよっ!アクアがすきないろは、あお!なのよっ!みずいろが、さいこうなのよっ!!」 「そう。綺麗な水色の髪だもんね」 「…………………………………」 アクア、やっぱり真っ赤だわ!って思いながら叫んだ。 「なによーっ!!いんキャのくせに、ころしもんく───!!!」 「うん…。陰キャだよね……」 「そっち!?べつにいんキャでいいじゃないのっ!ようキャばっかりだったら、せかいのテンションたかすぎてウザいわよっ!!」 「そうなの?」 「そうよっ!とにかく、うた!うたいなさいよっ!!めいれいよっ!!!」 アクアが、お姫様じゃなくて女王様な感じに叫ぶと、その子は困って、うんと恥ずかしそうな顔をしたけど、一呼吸置いて、歌い出した。 ……びっくり、した。 きれいな、声… 声に色があるとしたら、きっと、()き通った水色だわ。 水色の声が歌ってくれたのは、賛美歌(さんびか)だった。 キリスト教系の幼稚園だったから、こどもにはこども用の賛美歌(さんびか)の本があったけど、その歌は、礼拝(れいはい)の時に先生やお母さんやお父さん達…おとなが歌う曲。 「えっと…。長かったかな。4番まである曲だから、全部歌ったんだけど……」 アクアは、声をかけられて、歌が終わったことに気付いた。 もう少し、聞いていたかったな…って、アクアは思った。
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