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アクアが入園したときから、その子はもう幼稚園にいた。
あとから、名札の色で、年長さんなんだってわかった。
別に、気になった…わけじゃないわ。
だって、『違う』やつって、イヤでも目に入らない?
だって、アクア自身がそうだもん。
青い目なのはアリでも、水色の髪って染めてる芸能人くらいしかいないんだろうし、地毛のアクアはうんと目立ってたと思う。
「おまえ、そめてんのかー?ヘンないろ」
「うまれつきよっ!アクアのうつくしさがわかんないあんたのあたまがヘンなんでしょぶっとばすぞうりゃあ───っ!!!」
アクアは負けない!
何言われたって絶対!にアクアは美少女!!なんだから。
実際、堂々としてたら、お友達…っていうか、遊び相手は確保したわ。
例えば、ナントカ戦隊ごっこをしてる男の子たち。コドモの癖に、結構いっちょ前に男で売ってて「おんなとなんかあそばねーよ」とか、意地悪なんだかキザっちいんだか、そーゆータイプ。
「しょうぶよ!アクアのほうが、ずっとずっとつよいのよっ!!とうっ!!!」
どがしゃああああ!!!
男の子を従えるのは、女の子をそうするよりずっと簡単よ。
単純だもの。「アイツの方が強い」って思わせたら、アクアが格上よ。
その点、女の子はちょっと厄介だわ。
基本、女の子は「横並び」が建前なのよ。力関係は、水面下の複雑なバトルが必要で、本物の水で泳ぐのが大好きなアクアには性に合わないわ。
「ふんっ!くらえ───っ!!!」
どっかーん。
ふっ。アクア、ドッジボールでも無双よ。
サッカーでオーバーヘッドやったときには、すげー!!!って言われたわ。
「あったりまえよ。わたしをだれだとおもってんの?」
アクアは、青い目と水色の髪で強くて目立ちまくりだったわ。
……でも、あの子は、弱っちくてひっそりしてるのに、目立ってた。
栗色の髪に、緑の目。でも顔立ちは日本人ぽい。
基本、誰とも遊んでない。
友達の輪に交ざるのは、先生に「ほら、みんなと遊ぼうね」とか「お外で遊ぼうね」って手を引かれてくる時くらい。
その子はおとなしく先生についてくるし、うんとイヤそうな顔をしてる訳でもないんだけど、あんまり気が進まないんだなーっていうのくらいはアクアにも分かった。
「ちょっと。あんた」
「…………」
「コラぁぁぁ!むししてんじゃないわよヘタレっ!」
ビシィ!!って指差してやったら、その子は初めて、少し驚いた顔でアクアを見た。
無視したんじゃなくて、本当に自分に声をかけられたのが分からなかった、っていう顔。
「イヤならイヤってハッキリいいなさいよ」
「…………」
「せんせいも、なにイジワルしてんの?そいつ、ぜんぜんまざりたそうじゃないよ。たのしそうじゃないよ。イジメ?」
先生は、にこにこスマイル0円で言った。
「みんなで仲良く遊んだ方が方が楽しいでしょう?」
「たのしいかどうかは、せんせいがきめることじゃないわ。そこのいんキャがじぶんできめるのよ」
先生、困った顔。
で、先生もその子も黙っちゃったから、アクアはイラッとしちゃった。
「いーわよっ!だったら、しばらくアクアがそいつのめんどうみてあげるわ。それでいーでしょ?」
アクア、その子の手を握ってずんずん歩いた。
きっと、この子はあんまり人がいないところがいいんだろうなあって、園舎の裏に連れてった。
「みるからに、よわっちくて、どんくさそうだわ」
「…………」
「せんたいものやったら、けりくらっていっぱつでふっとぶわ」
「…………」
「ドッジボールは、いちばんはじめにあんたがやられるわ」
「…………」
「サッカーでは、はんたいにボールがまわってこないわ」
「…………」
アクア、結構ずけずけ言ったんだけど、その子は怒らなかった。
「うん…。そうだと思う…。僕、何でもダメだから」
「…………」
ちょっと。何よコレ。先生よりも、アクアがこの子をいじめてるみたいじゃないの。
でも、アクアは、初めてこの子と話をしたのに「この子って目立つなあ」って思ってた理由をひとつ言ってみた。
「……あんた、ときどき、ぶあついほん、よんでるでしょ」
「あ…その本はPTA図書で、幼稚園が大人に貸し出ししてる本なんだ。先生に聞いたら、読んでもいいよって言われたから」
「…………」
アクア、えええ───っ!!て叫んだ。
「なによー!あんた、メチャクチャあたまいいんじゃないのよ!!なんでもダメとか、イヤミったらしいこといってんじゃないわよ!!あんたなんか、『めいもんこう』にいって、『いちりゅうだいがく』にいって、『こっかいっしゅ』にごうかくしたら、じんせいかちぐみじゃないのーーー!!!」
「えっと…。国家一種とか、よく知ってるね…。最近は激務すぎて昔ほど人気じゃないみたいだけど…」
その子は、困ったように笑った。
「僕は、読書は好きだけど、それが頭がいいっていうことなのかどうかは分からないし、国家一種の官僚になって勝ち組になることが夢な訳じゃないんだ」
アクア、むーって眉を寄せた。これは、全然分からないわ。おとなの本と同じくらい分からないわ。
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