枕の下に写真をいれて寝るといいと聞いたけど

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枕の下に写真をいれて寝るといいと聞いたけど

俺の愛しき彼女は天使のような子だ。 いつも、おしとやかで愛想がよく「リョウマくんすごいね」「リョウマくんかっこいー」となにかと褒めてくれるし、多少、ヘマをしても過ちを犯しても「ふふ、かわいい」と笑って許容してくれるし。 とびぬけて可憐な容姿をしているから男を虜にするなんてお茶の子さいさいだろうに奥手で控えめなのもいい。 食事をすれば、必ず割り勘。 キーホルダーなどの安価な物は嬉々として受けとるが、高級な贈り物は必ず突き返す。 それでいて「女性差別よ!」といちいち食ってかからず「そんな困っちゃう」ともじもじするから男心はくすぐられまくり。 余計にプレゼントをしたくなり、でも、真っ向からだと受けとってもらえないので一工夫。 「俺の姉ちゃん、ブランドもの好きなくせして、飽き性でさ。 飽きるとすぐ、俺に売りつけてくんだよ。 昔っから姉ちゃんには敵わなくて押しつけられるんだけど、俺が持っててもさ。 まあ、そんなに払わなかったし、お古でよければ、もらってくれないかな」 はじめは「こんなに高級なもの、いいの・・・?」と目を泳がせる彼女も、いざ手に持てば「わー!新品みたい、うれしー!」と満面の笑み。 無邪気にはしゃぐのが、なんとも愛らしく、また見たいがため、いろいろと話をでっちあげ、貢いできた。 ただ、どれだけ貢いでも大学のサークル仲間という関係から進展せず。 交際したいというか、正直、彼女とエッチなことがしたくて耐えられなくなった俺は枕の下に彼女の写真をいれた。 高校のころ、聞いたのだ。 枕の下に写真を入れると、写っている人物が夢にでてくると。 男子の間では「好きな子の写真なら夢でエッチができる!」と盛んに云われていた。 まあ、エッチな夢は高望みだろう。 現実では、なかなか二人きりになれない不満解消に、せめて親密に接する夢を見たいところ。 果たして寝てから目を覚ました夢のなかで、俺はソファにもたれ、彼女はその肩にもたれていた。 鼻先には彼女の頭があり、髪のいい匂いがするのに息を飲む。 現実ではこんな近づいたことがなかったから。 俺の緊張が伝わったようで「どーしたのリョウマくん」と彼女が顔をあげ、舌足らずな声で呼びかける。 お互いの鼻がつきそうな、サークル仲間同士ではありえない距離感。 頬を染め、細めた目を潤ませた彼女はいつになく艶っぽい。 喉を鳴らしてから顔を近づけると、受けいれ体勢になって、ゆっくりと瞼を閉じ、顎をあげる。 「やべええええ!超かわいいいい!」と大興奮しつつ、交際経験ゼロという彼女のファーストキスをいただこうとしたら。 にわかに肩をつかまれて、前かがみだったのが一転、ソファの座面に押し倒された。 ぎょっとして目を見開けば、鼻をくっつけるのは彼女でなく、全身真っ黒の人間。 燃えて焦げたようなさまで、肌から黒い煙をあげている。 首が太く肩幅が広く、胸がぺったんこ、角ばった体つきからして中肉中背の男。 黒く塗りつぶされたような、のっぺらぼうだが、目だけは、はっきりと見えた。 血走ってぎらつく瞳。 飢えた獣のように殺気立ち、至近距離で俺を睨みつけながら、ない口で怒鳴りつけたもので。 「俺は運命の人である彼女に、誰にも負けないほど献身的につくして一千万円以上、貢いできたんだ! なのに報われないのは、まちがっている! ましてや、半端にしか狂っていないおまえに奪われるなんて許さない! 死んでも許さない! 許さないからなああああ!」 顔に噛みつかんばかりの、黒い男の恫喝に耐えられず、俺は跳ね起きた。 胸を突きやぶりそうに心臓はばくばく、全身汗でぐっしょり。 「エッチな夢どころじゃないな・・・」と息を切らしてうな垂れながら、まえに彼女に聞いたことを思いだす。 高校のころ、幼馴染の男子が自殺したのにショックで半年、学校を休んだと。 聞いたときは涙ぐむ彼女に、ひそかに胸をときめかせつつ「かわいそうに」と慰めたのだが、今は「ほんとうに、ただの幼馴染か?」と思う。 夢の男は「死んでも許さない」と云っていた。 じゃあ、もしかしたら、自殺した幼馴染を追いつめたのは彼女では・・・。 今、ひそかに貢いでいる俺も、他人事ではないのか? むくむくと疑いが湧いてきたものの「いやいや、たかが夢だ」と思考停止。 「夢に逃避しようとしたから罰があたったんだ」と思い直し、枕の下から写真を取ろうとする。 ぬきとったところで、落としてしまい、ベッドの下に滑りこんだ写真。 ベッドに乗ったまま、顔を逆さにして覗きこんだら、その暗がりから勢いよく腕が伸びてきた。 黒い手だ。 「あの男か」と察する間もなく、頭をわしづかみにされ、すさまじい怪力でベッドの下に引きずりこまれた。
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