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この世界は厳しい。
スマッシュヒットを叩き出しても、新たな波には勝てない。
ニュームーブメントに呑み込まれて、俺達のロック魂は少しづつ薄れて行く。あれほど売り上げたCDアルバムも一年を過ぎれば、只の想いでのアルバムでしかない。
卒業アルバムと同じで、そっと棚の奥へと消えて行く。
メインギターのロバートが重い口を開いた。
「すまん、もう新曲の案が浮かばない。出し切った感がある。どれもこれも同じ様に聴こえてしまうねん」
「マジかよ、ロバート」
「ああマジだ、ロベリー」
ロベリーってのは俺のボーカルとしての名前、本名は後藤だ。
最初はGotoにしてたけどカッコ悪いので、後藤に似ている強盗の英語Robberyを文字って、ロベリーにした。
「出し尽くした感は確かにあるにゃ」
「おまえもか、Neko」
ワザとなのか、素なのかしらないが、語尾ににゃを付けるので、皆でコイツを猫と名付けた。
「ちょっとぉーーマジなのそれ、せっかく毎日いろんなリズム研究してるっていうのに」
「すまんオンドリー」
珍しく馬面の彼が弱気になっている。
面長でルックスが抜群のアイツが……。
もう潮時なのかもしれない。
そう言う俺も実は、ここ最近歌詞に行き詰っていた。
こう心にガツンと来るものが浮かんで来ないのだ。
それに何より得意とする高音が出ない。
歌に感情を乗せられない。
「みんなスランプにゃ」
「もお俺達ダメなのかもな、最近ランクも圏外だしよ」
ファンの間では大人しく見えるサイドギターのリョウケン。
しかしコイツは一番喧嘩っ早く、猟犬みたく噛み付くような熱い魂を実は一番持っている。
そして何よりこのバンドの創始者であり本当のリーダーである。
そんな彼が『もう駄目だと』と言ったのだ。
俺達は事務所側と話、とうとう音楽活動の終幕を語った。
社長も分かっていたようで、一言も言わずただ縦に一度首を降ろす。
「ファンの皆様には大変申し訳ないのですが、俺達ブレーメンは無期限活動休止を宣言します!?」
こうしてデビューしてから十年、俺達音楽隊の人生は一旦幕を引いた。
◇◇◇◇◇
あの時俺達は、もう再び5人でコンサート会場に立つことは無いと思っていた。
「ほんま信じられへんは、まさかブームが返ってくるとは」
「おいおいロバート、ちょっとファンデの色間違ってんじゃないの? なんか灰色っぽくてまるでロバみたいやん」
「うっさいわ、元々馬面やからしゃーないやろ」
「いけてるにゃ」
「何でお前はカチューシャ?」
「猫耳つけたにゃ」
「あっそ」
「さあ、気合入れて行こうぜ今日は」
もう無いとは思っていたが、発声練習を続けていた甲斐が有った。またいつか歌えるのだと、心の何処かで信じていたのかもしれない。
そう、俺はこの5人でやれることを……。
「結婚してから随分男らしくなったな雄鶏」
「おうよ、って雄鶏じゃなくってオンドリーだっつーの」
「へっ、どっちも変わらんわ」
「そんなこと言ってやるなよリョウケン、リーダーなんだからさ」
とうとうこの日が来た。
俺達が無期限活動休止をしてから約15年の時が経ち、まさかの復活の時が来た。
実のところ解散を意味していた無期限活動休止が、本当の意味での休止へとなった。
そして俺達のファンはずっとこの時を待っていてくれた。
「皆さま、お待たせいたしました。よいよ満を持してブレーメンの復活ライブです!?」
「お前等、今日は誰よりもどんな奴よりも燃えて燃えて燃えあがって行くぞーーーー」
珍しくいつも会場では大人しいリョウケンが吠える。
わぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「一曲目は新曲で『暗闇に浮かぶ5つのシルエット』」
新曲が始まりギターが嘶く!?
いつも以上にロバートはヴィブラートを長めに揺らす。
「お前ら、俺の歌を聞けーーーーーーー!?」
「かかってこい」
わぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
今日この日、俺達ブレーメンの音楽隊は復活した!?
━━Ende━━
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