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すると、まだ占い師が座っている。しかも、夕方のせいか、客が誰もいない。並んでいた朝が嘘のようだ。私がチラッと見ながら通り過ぎようとしたその時……。
「そこの、お嬢さん。良かったらみてあげますよ」
着物を着た男性がこちらをじっと見ている。
「結構です」
「そう言わずに。お金はいりません。あなた、これから新しい生活に入るでしょ?」
「え?どうして……」
「どうしてって、みれば分かるんですよ。それに、少し面白い形が見える。あなたに教えてあげた方がいいかもしれないから、是非暇つぶしだと思ってここに座ってください。タダだから、ね」
まあ、タダならいいか。
確かに、興味が無いわけでも……ない。新しい生活に入るし、これから私の人生は大きく変わる。教えてくれるというなら聞いておこうくらいの気持ちだった。足を占いの椅子のほうに向けた。
「どうぞ。お座りください」
机の上には陰陽道と言う文字。また、不思議な五角形が見える。
「あの……」
「そうですね。あなたは何もまだ思い出していない。でも、この梅園に毎年来ているから、導かれている。心配はいらない」
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