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「さあ、元気よく走って逃げてみろよ、紫。できるもんならな」
悔しい。二年前に複雑骨折した足は思ったようには動いてくれない。
完全に治ったと思ってたのに……全力疾走はダメだと言っていた光琉の言うとおりだった。
私達を乗せたタクシーは、発進した。
着いてびっくりした。
病院の名前が『藤野整形外科医院札幌分院』と書いてある。
えー?どういうこと?
「お前が働いている井上総合病院は知り合いがいる。お前の名前を聞いたらすぐに連絡が来た。半年前入った看護婦に同姓同名のがいると言ってな、教えてくれた」
「ひどい、個人情報なのに」
「あいつは昔から俺の言うことはなんでもきくんだよ。ホントは俺からなんて絶対連絡取りたくなかったのに、お前のせいだぞ」
その口調。まさか……。
「もしや、井上副院長って元カノですか?」
「元カノではない。俺を追い回していた女のひとりというだけだ」
なんなの、その悪びれない物言い。だから、いやだったのに。
「もう、昔の女は関係ないと何度言ったらわかるんだ。俺の運命の女は紫、おまえひとりだよ」
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