引きこもりのお引越し

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いい物件が全然見つからない。 かれこれ1年以上も探し回ってるというのに、 俺好みの家になかなか出会えない。 今の家もだいぶ手狭になってきたから、すぐにでも引っ越したいのに。 ただ、物件が見つからないのは、自分に原因があることは分かっている。 なにせ俺の好みはめちゃめちゃ細かい。 まず俺は、基本ワンルームにしか住まない。 部屋が分かれていても使い道がないし、 広くてすっきりとしたワンルームが好みだ。 それも長細くて奥行きのある間取りがベスト。 逆に玄関は少し狭いぐらいがいい。 入り口が広すぎるとどうも不安なのだ。 俺は昔からかなり臆病な性格だ。 そういう意味で、窓もいらない。 外界との接触部分をできるだけ減らしたいからだ。 安全な家の中でじっとしていたい。 そう、俺は基本的にひきこもりなのだ。 ちなみに外見は洒落たやつがいい。 ほとんど家から出ないくせにって思うかもしれないが、 俺だってスタイリッシュな家に住みたいんだ。 自分までオシャレになった気がするから。 でも、そういう良い物件はいつも埋まってるものだ。 そしてなかなか空きが出ない。 だから俺は、よその家を強引に奪うことにした。 少し前に目をつけていた良さげな物件がある。 部屋の広さも、間取りも、デザインも申し分ない。 本当はこんな乱暴な真似はしたくないのだが、 空いている物件が他にないのだから仕方ない。 目当ての家のドアを激しくノックし、 家主が顔を出したところで強引に引きずり出そう。 トントントン! ドアをノックするが、警戒してなかなか出てこない。 かなり用心深い家主のようだ。 俺はさらにしつこくドアをノックし続けた。 さすがに1日中ドンドンされたらひとたまりもないだろう。 ついに家主が出てきてくれた。 思ったより素直に明け渡してくれたので、乱暴な真似はしなかった。 代わりに今俺が住んでいる家を譲ってやった。 俺たちは、自分好みの家が見つからない場合、 多少強引だが、こんなふうにして宿交換をする。 体の成長に合わせて貝殻のサイズを大きくしないと生きていけないからだ。 ただ、宿から抜け出した瞬間を狙ってくる外敵も多い。 俺らの引越しはいつも命懸けだ。
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