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物を分別し終える頃にはすっかり陽が傾き始めていた。
作業を終えた事を報告するため、縁側から爺ちゃんの部屋の方へ向かうと、婆ちゃんがせっせと箱に物を詰めているみたいだ。
「終わったよ婆ちゃん。古くてほとんど処分する事になるかもしれないけど」
「ありがとねカナタ。埃だらけだったでしょ?荷物にならない様に捨てないとね」
やはり写真の素っ気ない少女とは思えない。皺くちゃの顔で微笑むいつもの婆ちゃんだ。
「爺ちゃんの物って結構あるよね。骨董品やらガラクタ好きだったもんな。爺ちゃんの物は結構な荷物だよ」
「そうね。買ったものというより、貰い物が多かったのよ。でも、ほとんど捨ててしまおうと思っているの」
「えっ、どうして?」
てっきり爺ちゃんの物は全て持っていく物だと思っていた。
「ソウタさんが言ってたわ。『物や人はいつか無くなるかもしれないけれど、想い出はずっと残っていく』って」
「まぁ、婆ちゃんがそう言うなら口出しする事じゃないけど…これは、どうする?」
そう言って蔵から持ち出した外套を広げて見せると、婆ちゃんの細い目が大きく開かれて、そっと外套に触れる。
「これ…懐かしいわね。ソウタさんの物ね。もうすっかり無くなってしまったものかと」
「たぶん爺ちゃんが定期的に手入れして大事にしてたんじゃないかな。これくらい持っていってあげなよ。それと、これも一緒に入ってたよ」
ポケットから例の写真を取り出し手渡すと、明らかに婆ちゃんの表情が変わった。
思い詰める様に見つめて、グッと固く口を噤む。
「爺ちゃんはきっとこれも大事にしてたんだろ。写ってるのって、婆ちゃんと爺ちゃんだよね?」
少しの間、沈黙が続いた。
「そう…ね。懐かしいわね。写真なんてこの頃には珍しい物だったから。若気の至りで仮装して、お友達と一緒に撮ったのよ」
ズキリと頭の奥底が痛むのを感じる。
この感覚が否応無く真実だけを突き付けてくる事を、俺は嫌というほど知っていた。
婆ちゃんは嘘をついている。
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