ウソと真実

1/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

ウソと真実

 何故か俺には、嘘を吐く人間が分かった。  物心がつく頃から起こり初め、突発的なただの頭痛だと思っていたそれは、医師に見せてもどこにも異常はなかった。  しばらく続かないこともあれば、頻繁に起こることもある。  そんな頭痛と共に何年も生き続けると、この痛みにはある一つの法則性があるということが分かった。  質問した事に相手が答えた時。何気ない友達の自慢話。どれも会話の途中で起こるという事だ。  それが嘘に起因すると確信したのは、親父が病気で死ぬ間際の事だった。 「絶対に治るよね?帰ってこれる?」  真っ白な病室のベッドの隣で、何も知らない俺が問いかける。 「ああ……当たり前だろ!こんな事で父さんが死ぬもんか!」  弱々しくも気丈に振舞う親父と、涙を流す母親の姿は、頭痛がしなくても嘘であると分かった。  きっともう助からないと、子供ながらに悟った。  親父はやはり、帰ってくる事はなかった。 「なぁ婆ちゃん。どうして嘘吐くの?なんか隠してるでしょ」  俺の言葉にビクリと肩を竦ませる。 「どうして…そんな事、聞くの?」 「明らかに何か隠してる気がするからだよ。なに?俺ってそんな信用ないの?」  我ながら苛立ちを含んだ物言いだと思った。 「いや、そういう訳じゃないよ。ただ、ちょっとね…」  言い淀む婆ちゃんは困った様に俯く。  何か言えない理由があるとしても、それは家族にすら打ち明けられないものなのだろうか。  友達や恋人や社会に嘘を吐かれても、数少ない家族にだけは嘘を吐いて欲しくはなかった。 「俺には言いたくないんだね。じゃあもういいよ」  吐き捨てる様にして言葉を投げかけ、その場から立ち去る。  俯いたままの婆ちゃんの顔は、よく見えないままだった。            *  やがて夜になり冷静さを取り戻すと、少しの後悔をし始めていた。  少し強く言いすぎたか、と思いながらもなかなか気晴れする事がなかった。  気まずいまま食卓を囲み風呂に入り、逃れる様に布団にまで辿り着いてしまったのだ。  あんな物言いをしたのに、夕食は俺の好きな唐揚げだったな、とか。  でも、家族である俺に隠し事をする方が悪い、だとか。  そんな自問自答を繰り返すあたり、わがままな子供のまま、俺は何も変わっていないのかもしれない。  堂々巡りになる感情からか中々寝付けないでいると、虫の鳴き声の他に物音がするのに気が付いた。  こんな田舎の家に泥棒なんて来るはずない。  婆ちゃんがもしかしたら起きているのかもしれない。  俺は身体を起こして、音のする方へと向かった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!