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ウソと真実
何故か俺には、嘘を吐く人間が分かった。
物心がつく頃から起こり初め、突発的なただの頭痛だと思っていたそれは、医師に見せてもどこにも異常はなかった。
しばらく続かないこともあれば、頻繁に起こることもある。
そんな頭痛と共に何年も生き続けると、この痛みにはある一つの法則性があるということが分かった。
質問した事に相手が答えた時。何気ない友達の自慢話。どれも会話の途中で起こるという事だ。
それが嘘に起因すると確信したのは、親父が病気で死ぬ間際の事だった。
「絶対に治るよね?帰ってこれる?」
真っ白な病室のベッドの隣で、何も知らない俺が問いかける。
「ああ……当たり前だろ!こんな事で父さんが死ぬもんか!」
弱々しくも気丈に振舞う親父と、涙を流す母親の姿は、頭痛がしなくても嘘であると分かった。
きっともう助からないと、子供ながらに悟った。
親父はやはり、帰ってくる事はなかった。
「なぁ婆ちゃん。どうして嘘吐くの?なんか隠してるでしょ」
俺の言葉にビクリと肩を竦ませる。
「どうして…そんな事、聞くの?」
「明らかに何か隠してる気がするからだよ。なに?俺ってそんな信用ないの?」
我ながら苛立ちを含んだ物言いだと思った。
「いや、そういう訳じゃないよ。ただ、ちょっとね…」
言い淀む婆ちゃんは困った様に俯く。
何か言えない理由があるとしても、それは家族にすら打ち明けられないものなのだろうか。
友達や恋人や社会に嘘を吐かれても、数少ない家族にだけは嘘を吐いて欲しくはなかった。
「俺には言いたくないんだね。じゃあもういいよ」
吐き捨てる様にして言葉を投げかけ、その場から立ち去る。
俯いたままの婆ちゃんの顔は、よく見えないままだった。
*
やがて夜になり冷静さを取り戻すと、少しの後悔をし始めていた。
少し強く言いすぎたか、と思いながらもなかなか気晴れする事がなかった。
気まずいまま食卓を囲み風呂に入り、逃れる様に布団にまで辿り着いてしまったのだ。
あんな物言いをしたのに、夕食は俺の好きな唐揚げだったな、とか。
でも、家族である俺に隠し事をする方が悪い、だとか。
そんな自問自答を繰り返すあたり、わがままな子供のまま、俺は何も変わっていないのかもしれない。
堂々巡りになる感情からか中々寝付けないでいると、虫の鳴き声の他に物音がするのに気が付いた。
こんな田舎の家に泥棒なんて来るはずない。
婆ちゃんがもしかしたら起きているのかもしれない。
俺は身体を起こして、音のする方へと向かった。
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