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カラオケ店に入ると、顔を赤く染めた店員さんがまどかちゃんに「どのお部屋がいいですか?」と尋ねていた。
隣にいる僕には気づいていない様子だ。
「下村くん、どのお部屋がいい?」
「まどかちゃんの好きな部屋でいいよ」
「ええー、下村くんの好きな部屋がいいよー」
「おおお、押忍! 僕の好きな部屋だね、押忍!」
そんなイチャコラを店員さんの前で見せびらかせられる幸せ。
正直、「チッ」という舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけど、僕は普段選んでる機種の部屋を指定した。
「お時間はどうされますか?」
「フリータイムで!」
まどかちゃんの歌声を聴けるなら、1時間や2時間じゃきっと足りない。一日中聴いていてもいいくらいだ。
「ごゆっくりどうぞー」
店員さんから案内された部屋に入った。
辺りを薄暗くして雰囲気づくりもバッチリにする。
「下村くんと個室で二人きりだなんて。ドキドキするー」
「そそそそ、そうだね! ドキドキするね!」
ドキドキどころか爆発しそうです。
「下村くん、どんな歌うたうの?」
「僕は……アニソンとか……」
「へえ、すごい!」
すごいかな?
「まどかちゃんは?」
「私は童謡とかかな。よく口ずさむから」
「童謡!?」
なんてこった、天使に輪をかけて天使な答えが返ってきた!
天使が童謡を歌ったら、それはもう童謡じゃなくて神の啓示だよ!(意味不明)
「それはすっごい楽しみ!」
さっそく僕はまどかちゃんにマイクとリモコンを手渡した。
正直、僕なんぞの歌は流さなくていい。
この部屋はまどかちゃんの歌声だけで十分だ。
「えー、私から?」
恥ずかしそうな顔をするまどかちゃんに僕は「早く早くぅ」と子供のようにせがむ。
「えーと、じゃあ、これにしよ。どうやって操作すればいいの?」
おそらくカラオケは初めてなのだろう。
まどかちゃんは僕に機械の操作を求めてきた。
「これはねー」
そう言ってリモコン操作をして送信する。
流れてきたのは童謡「もみじ」だった。
渋い! 渋すぎるよ、まどかちゃん!
カラオケで「もみじ」最高だよ!
今は夏だけど、季節を先取りしてるね、まどかちゃん!
「ああ、ドキドキする。音痴でも驚かないでね?」
「うん、もちろん!」
前奏が終わり、まどかちゃんが歌い出した。
「ぼえ~~~~~~~~~~♪」
「ぎゃーーーーーーーーーす!!!!」
はい、期待通りの展開でした。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、非の打ちどころのない性格。
そんな彼女の唯一の弱点が、まさか歌だったなんて。
天使の歌声が悪魔の歌声に変わった瞬間だった。
「ぼえ~~~~~~~~~~~~~♪♪♪」
僕はその日、別の意味で天に召されそうになった。
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