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お香スーハー
第三章
横たわって身体を休めるだけの仮眠のつもりが、そのまま寝落ちし朝までグッスリコースの癖は転生後も抜けていないようだ。
さわやかな陽の光を浴びしばしまどろんでいると、人が近づいてくる音を察知した。
衣擦れというやつか。大仰な音はだんだんと大きくなり、几帳の前でぴたり止まった。
「お目覚めですか」
相変わらずのイケボとともにふわりと香が漂う。荷葉(かよう)、と呼ばれる平安貴族が夏に使用していた香だろうか。本人に直接聞いてまえ。
「荷葉なん?」
「うお!!」
几帳の横からひょいと顔を覗かせると、晴明さんがわかりやすくビクついた。
「いやすまんすまん、布きれ越しに会話とかまどろっこしくてな」
かんらかんらと豪傑のように笑ってみせる。
「……あなたの元いた時代は、男女が直接相まみえることが普通なんですか……?」
「そうやな。風呂とかトイレとかはさすがに別だが……同じ部屋で会話しながら普通に仕事するわなあ」
「そうですか。ならば、私も合わせるようにします」
「助かるけど……、平安時代に合わせろ! とか言わんのやな」
ふっと息を洩らすように晴明さんが笑った。
「なぜですか? 何者かの意思によって、気づいたらここに出現させられていたと昨日説明くださったではないですか。それに千年前の世界に突如として放り込まれて、心細い思いもしているでしょう。合わせるべきは私のほうです」
「お、おう……、」
「行きましょう。朝餉の時間です」
促されるまま、晴明さんの後に続くようにして渡り廊下を歩く。途中、宮仕えと思しき貴族がわかりやすく驚愕してのけぞっている。
「昨日根回ししておいたのですが、やはり見慣れないため驚いているようです。申し訳ありません」
肩越しに詫びられたので、私も慌てて両手を振り詫びる。
まあメガネに某ファストファッションのポロシャツとチノパン、といういで立ちは彼らにとって宇宙人くらいの異質な代物であろう。追い出されないだけありがたいと言える。
それにしても、と前を歩く白い狩衣の背中を一瞥する。
「ギャグギャグ☆陰陽師」とかいうふざけたタイトルのわりには、晴明さんの人間性は至極まっとうな気がする。ギャグ要素が見当たらないのだ。まあ絶世のイケメンに描かれていないのを見る限り、王道ファンタジーでない様子は垣間見える。
そういや平安時代の朝ごはんってなんだ? 強飯?
わくわくしながら一室へと入って行った。
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