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ベッドに入って眠る前に日下部くんの事を思い浮かべる。
日下部くんは背が高くて性格も表情も穏やかで、眉目秀麗成績優秀と非の打ちどころのないクラスメイトだ。
それに引き換え俺、中森綾人は何もかもが平凡。容姿も身長も普通。成績だってそう。テストは60点。
付き合えるとは思っていない。フラれて気まずくなるのが怖い。クラスも委員会も選択授業だって同じ。休み時間につるむ友人は違うが、接点が多すぎる。
……日下部くんは告白され慣れているから気にしないか? 俺はフラれたらしばらく立ち直れないだろうけど。明日が憂鬱で仕方なかった。
HRが始まる直前に教室に駆け込む。
日下部くんと視線が合って、不自然に逸らしてしまった。……感じ悪かったかな。でも、まともに顔が見られない。
放課後が近付くにつれて、心が浮き足立つ。それでも刻一刻と時間は過ぎて、放課後になってしまった。
急いで体育館裏に向かう。日下部くんはまだ来ていなかった。
俺が本当に告白するか確かめるために、早川と田中は物陰に隠れる。そちらに目を向けると、2人が親指を立てて頷いた。
不安で心臓が押し潰されそう。いっそ日下部くんが来なければ良いのに、と思った途端にフラグ回収。
日下部くんがこちらに向かってくる。
「待たせちゃったかな?」
「ううん、全然待ってないよ。来てくれてありがとう」
「……何で僕を呼んだの?」
早速本題に入られて大きく深呼吸した。うるさいほど心臓は激しく動くし、手の震えも止まらない。それでも手をキツく握りしめて大きく息を吸った。
「日下部くんが好きです。付き合ってください」
頭を下げる。顔を上げられなくて、日下部くんのつま先を見つめた。
「そう……。僕は中森くんと付き合えない」
聞いたこともないほどの冷たい声。反射的に高い位置にある顔に目を向けた。いつもの穏やかな顔ではなく、口元は笑っているのに目に表情はない。
「もうこんな事言わないでね」
日下部くんは踵を返す。見えなくなるまでその背中を見つめた。日下部くんが見えなくなると早川と田中が俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「日下部、何で……?」
田中に背を撫でられ、早川は口元で拳を握って考え込む。
日下部くんのあんな顔初めて見た。告白されても優しく断っているのを知っている。きっと俺は日下部くんに嫌われていたんだ。空虚感に苛まれ、自分がどうやって帰宅したのかも分からなかった。
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