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「話って?」
俺から視線を外して平坦な声を出す。いつも話す時に目を合わせて優しく微笑みかけてくれる日下部くんではなかった。
今すぐ逃げ出したいと思うが、きちんと誤解は解かないと。緊張で湿る手のひらをズボンで拭う。
「日下部くんが好きです。付き合ってください」
日下部くんは眉尻を下げて、悲しそうに顔を歪める。
「僕、昨日言ったよね。もう言わないでって。罰ゲームで告白して僕の反応見て楽しんでるの? 中森くんがそんな人だと思ってなかったよ」
「今日の告白は罰ゲームじゃないんだ。昨日だって罰ゲームだけど、好きな人に告白するって事だったから、楽しむとかそんなんじゃない。きっかけは罰ゲームだけど、昨日も今日も真剣に告白してるのは本当なんだ」
俺は日下部くんに嫌われているかもしれないけど。
「……それ、本当?」
目を瞬かせて俺と視線を合わせてくれた。何度も頷く。日下部くんは曇りのない笑顔を見せてくれた。ドキリと胸が高鳴るのに、日下部くんが俺を抱きしめて狼狽える。
「良かった。罰ゲームで告白するって話しているのを聞いちゃったんだ。それで僕に呼び出しの手紙があったから、僕の気持ち知っていて告白相手に選んだのかなって思ってた。中森くんも早川くんも田中くんもそんな事する人じゃないって考えなくても分かるのにね」
「日下部くんの気持ちって?」
「僕が中森くんを好きだって気持ち」
「え? 俺、嫌われてたんじゃないの? 昨日告白した時、すっごく冷たい態度だったし」
「だってそれは好きでもない僕に罰ゲームで告白してると思い込んでたから。何で委員会も選択授業も一緒だと思う? 僕が中森くんと少しでも接点が欲しいからなんだよ」
緊張の糸が切れた。日下部くんはその場に座り込みそうになった俺を支えてくれる。
「えっと、じゃあ……」
「中森くん、僕と付き合ってくれる?」
息苦しいほど胸がいっぱいになり、言葉が出てこなくて何度も頷いた。
抱きしめてくれて、落ち着くまで背中を撫でてくれる。暖かくて心地良い。
「帰ろうか」
手を繋がれる。
「あっ、でも、カバン教室だから少し待っててくれる?」
「一緒に行こ」
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