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1. ØとMIKI[ゼロとミキ]
悲鳴があがった!
その瞬間、大柄の男は軽々と宙に浮かびフロアーの床に叩きつけられた。鈍い音がした。おそらく、衝撃で肋骨は砕けたろう。内臓が無事なら幸運だが……。
今では国営当局から発禁指定されているクラシック・カルチャー系の音楽をブンブンとフロアーに響かせる闇のクラブスポットにガサ入れが入った。
当局に目をつけられて潰された同じような店をいくつも知っている。ただ、今回のガサ入れはちょっと様子が変だ。
やれやれ、また一つ隠れ家を失ったか……。ボンヤリとトリップしているオレの意識が「やれやれ……」と、さっきから同じ言葉をリピートしている。
誰かがオレの腕を引っ張った。
何か叫んでいる。
『Ø、タ、ス、ケ、テ……ミ、ン、ナ、シ、ン、ジ、ャ、ウ、ヨ……』
この若い女、見覚えがある。オレが捌くドラッグの常連客だ。名前は確か……ああ、なんだ、MIKIか。
腕を引っ張っていたMIKIの手を振り払ったオレは、勢いあまってカウンターの椅子から転げ落ちた。音楽がうるさくてオレは彼女に怒鳴るくらいの大声で言った。
「なんでオマエがここにいるんだよ――!?」
「勝手でしょ? "REBEL"の仕事が片づいたから遊びに来たんじゃん!」
MIKIの目を見た。あきらかにキメてやがる。こいつ、昨日会ったばかりなのに……。
"REBEL"の仕事で緊張を強いられ、肉体と神経が疲労してる上でのドラッグは効果が倍になって襲いかかる。ジャンキーはこれだからたちが悪い。
自身でコントロール出来ない奴はやがて廃人か死だ。
「ったく、馬鹿か、オマエは!」
「え、何よ? 聞こえな――い」
「何でも良い、いつものガサ入れだ、さっさと逃げろ!」
「違う、なんか警察以外に変な奴らが紛れ込んでるんだよ!」
「変な奴ら?」
視線の先にはフロアーで倒れたまま動かない大柄の男の周りを国営警察の鎮圧ロボットが3体、トドメを刺すべく電圧警棒を振り上げてるところだった。50ボルト近い電流が流れて失神気絶させるのだが、ヘタをすれば人間には致死レベルだ。
鎮圧ロボットとは別に昔のホラー映画に出て来そうなゴーストフェイスの仮面をした2人組が足早にオレとMIKIに近づいて来る。
「オマエ、何かやらかしたのか――? なんだよ、あいつらは?」
「知るわけないじゃん!」
ゴーストフェイスの2人組はオレを無視した。あきらかにMIKIを狙っていた。
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