目覚まし時計

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珍しくも何ともない、量産された人形。 だけど棚に飾られている人形を見た時、「私の子だ!」とマミコにはすぐに分かった。 子どもの頃、人形にはピンクや水色のドレスをよく着せていた。 マミコが好きな色だ。 今、目の前にいる人形は黒いゴシック調のドレスを纏っている。 随分と雰囲気が違う。 だけど見た目の印象が変わっても、あの子に間違いない。 「あの、その人形…」 妹にあげた人形が、なぜ骨董品店にあるのか。 不思議に思って、マミコは店主に声をかけた。 「呪われた人形じゃよ」 店主は言う。 “この見た目のお爺さんが、本当に語尾が「じゃよ」なんだ” マミコはちょっと感動する。 「この人形は、呪われた歌う人形だと言われておる。 色んな人の手に渡り、ワシの所に流れ着いたんじゃ」 「呪われた、歌う人形?」 「あぁ。もっとも、ワシはその歌を聴いたことはないがな」 「その人形、いくらですか?」 思ってもいない言葉が、するっと口から出てきた。 買おうとしていることに、マミコは自分で驚いた。 「この人形は売り物ではないんじゃよ。 なんせ、呪われた人形じゃからのう」 「あの、その人形…」 マミコは人形が、かつては自分の持ち物だったと説明しようとした。 「お嬢さんに差し上げよう」 マミコの言葉を遮って、店主が言った。 「この人形は、お嬢さんと深い縁があるようじゃ。 お嬢さんが連れて帰りなさい」 こうしてマミコは、着せ替え人形をタダで手に入れた。
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