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 体調を崩した小曽根を、部下が車に乗せて走らせた。 「病院へ行った方が良いのではありませんか。  顔色が悪いですよ」  激務に追われる銀行員は、車くらいにしか金をかける物がない。  レクサスの後部座席でぐったりとする彼は、(ほう)けたように外を眺めていた。 「思えば、仕事しかしてこなかったな。  俺の人生は何だったのだろう ───」  モニタに映し出された後部の画像が、後ろへと流れていく。  アラウンドビューに切り替えると、車を上から見下ろしたような映像になる。  どんな仕組みなのだろう、と改めて考えるが素人には分からない。  コンピュータが生活のあらゆる場面に組み込まれ、ブラックボックス化していく現代においても、人生の価値は自分で探さなくてはならない。  分からない物に囲まれて、目先の仕事に追われる人生だった。  不意に無力感が心を支配し始める。 「もう、疲れたな」 「ご自宅でゆっくり休んでください」  引っ越したばかりのシェアハウスの玄関まで、肩を貸してくれた部下に礼を言い、リビングの椅子に腰かけた。  ふう、と息をつきコップ一杯の水を飲む。  体調は日を追うごとに悪くなっていく。  自分には仕事しかない。  ネガティブな意味だけではない。  人生に何も残らないわけではない。  数えきれないほどの企業を破綻(はたん)に追い込んだが、救った企業もまた数えきれない。  星の数ほどの人と知り合い、別れてきた。  まだ陽は高いが、夜空の星が天井の向こうに見える気がした。  何とか身を起こし、着替えると()え付けたばかりのベッドに入り目を閉じた。  隣りの部屋で、時々物音がした。  日中も部屋に(こも)って仕事をしている人たちがいる。  自分にも孤独を選ぶ機会が、人生のどこかであっただろうか。  つい弱気が顔を(のぞ)かせ、自嘲(じちょう)に口元が(ゆが)む。  そうだ、俺には銀行以外に道はなかった。
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