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 小説家の津福と、小曽根の仕事や生い立ちなど込み入った話をした後、 「では、お体に障りますから」  と話を切り上げて行った。  家族のことを、生活から切り離そうとして引っ越しを決断した。  病気を患ってからも、特に何も変わらなかった。  生活のすべてを仕事中心にしてきた自分が、見返りを求めていたわけではないが結局家族に何かを期待していたのかも知れない。  その時、スマホが振動した。 「父さん、大変だ」  上ずった声で、通話口からいきなり訴えた。 「会社の金を使い込んだのがバレたんだ。  このままじゃあ、俺クビになっちまうよ」  裏返った声だった。 「真志(しんじ)か、今どこにいる」  テーブルに片手を突いて身を起こした。  スピーカーから車の音や人の話し声が聞こえる。  外からなのだろう。 「このままじゃ、俺警察に捕まっちゃうよ」 「どうすればいい」 「今すぐ500万用意できれば、何とかなるかも知れない」  口座をメモに書き、 「ここへ振り込めば何とかなるのか。  父さんの伝手(つて)で話してやろうか」  答えはなかった。 「ちょっと待った」  スマホをひったくると同時に、 「お前は誰だ、こちらからかけ直すから一旦切るぞ」  荒っぽく怒鳴りつけ、通話を切ってしまった。  口を半開きにした小曽根は、その女の横顔を呆然(ぼうぜん)と見つめた。 「あの、あなたは誰ですか」  蚊の鳴くような声しか出なかったから、聞こえなかったのか女は無言でスマホを突き返した。  鼻をふんと鳴らし、 「ほら、息子さんにかけ直してみなさい。  こんなの常識だろうが」  最後は𠮟りつけるように声を荒げた。  息子は、きょとんとして父親の身体のことを聞いてきた。  勿論(もちろん)金を使い込んだなど、心当たりがないようだった。
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