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世界が滅びるとされる日でも、世界は案外いつも通りだ。
「お邪魔します。これ、ケーキ買ってきたんだけど、ご両親いつ帰ってくんの? おばあさんのお見舞いだったよな」
渡されたのは白い箱。受け取ると、宗助は自分が脱いだ靴を揃えた。
「お見舞いっちゃそうだけど、夫婦での旅行も兼ねてるみたいだったから明後日までは帰ってこないよ。だからケーキは一緒に食べちゃおう」
「え。そんな食えるか?」
「まあ何とかなるでしょー。ほら、最後の晩餐だと思ってさ」
「俺、最後の晩餐なら音が作った飯がいいっていったじゃん」
知ってる。あたしの手料理なんて食べたことないくせに言うもんだから、おかげで苦労してるんだよ。
「リクエストは何だっけ、言ってみて。さんはい、どーぞっ」
リビングへのドアを開けながら言う。玄関までは届いていなかった美味しそうな匂い。
宗助も気づいたらしく「お」と嬉しそうにはにかんだ。
「ビーフシチュー?」
「せいかーい。あと、玉子焼きって言うからこれから作るよ。サラダどうする?」
「俺がやるよ。キッチン行ってもいい?」
宗助にはソファーに座っておいてもらうつもりが、手伝ってもらえることになった。手際の良い宗助がてきぱきと動いてくれて、とても助かる。
トントンとリズム良くトマトを切っている宗助。あたしより慣れた手つき。
「ちょっとさ、宗助くん。あたしと結婚しない?」
「――っだー!? 音は前置きなしにそういうことを言って来るなよ! 俺の指がなくなるとこだっただろ!?」
包丁を置いて、後ずさる宗助。耳たぶが染まっているのが面白くて、あたしはケラケラ笑った。
相変わらず、すぐ赤くなるなあ。
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