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良い夢を
家にあったものだけじゃ足りず、きちんと材料を買って、生まれて初めてビーフシチューというものを作ってみた。思っていたより時間がかかるものを選んでしまったと、今さら後悔しても遅い。
「にんじん、ちょっとかたいかも……」
味見をすると、ガリっと歯ごたえのあるにんじん。まあ、食べられないことはないから良いとしよう。
まだ時間は残っているから、しばらく火にかけておけば……たぶん何とかなるよね。
──ピンポーン。
インターホンが鳴って、一旦火を止める。出る前に訪問者の確認をした。誰だか予想はついていたけど、両親不在かつこのタイミングで何かあっては怖いから念のため。
画面に映る顔に頬が緩む。やっぱり宗助だ。パタパタとスリッパの音を響かせながら、玄関へ向かった。
「いらっしゃい。外寒いね。うわー、変な空! これは世界も終わる感じなんじゃないの」
「変なって、夕暮れなだけだろ。学校サボりやがって」
「世界が終わる日くらい、休むべきでしょ。みんな真面目すぎるよ。休みになるかと思ったのに、全然ならないんだもん」
「信じてないんだろ。今のところ、どうやって終わるのかわかってねーんだから」
それもそうだ、とうなずく。宗助が入って来れるよう、あたしは大きくドアを開けた。
嘘か本当かわからないけど、もうすぐ地球が消滅する。日常が動いているところを見ると、みんな嘘だと思っているらしい。
何だか古代の人がいつ何時に地球が消滅すると記した資料が発見されたのだと、ニュースでやっていたのを見た。それが今日これからのこと。
確か、今朝もどっかで取り上げられていた。緊急ニュースではなく、エンタメとして都市伝説のような扱われ方だったけど、あたしは信じることにした。
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