第二話「私が君に言いたかったこと」

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教室に入った僕たちが初めに見たのは、青髪の女性の死体と、走りながら教室を出て行く、アラタの後ろ姿だった。 僕は慌てて教室を出て、去っていく僕の姿を観察した。 教室から出た、生前の僕の足取りからは、後悔や恐れを感じさせなかった。逆に、温泉に入った後のような "充実感" を感じさせていた。 僕はその姿に恐怖を感じた。とても人殺しをした直後とは思えなかった。それと同時に、殺されたこの女性にはとても同情をしてしまった。 女性は、背中から心臓までナイフで刺されており、うつ伏せの状態で倒れていた。顔を見ようにも、返り血により、真っ赤に染まり、確認ができなくなっていた。 アラタの心は悲しみに溢れていた。 「……本当にクラスメイトを殺すために、僕は動いてたんだな」 アラタは悲しい表情で、生前の自分の行動について考えていた。 「……あいつは、殺した時に何を思ってたんだろうな?自分のことのハズなのに、僕は自分の考えていることが全く分からない。……今はとにかく、自分が恐ろしいよ」 気持ちの整理がつかなかった。 ここに来て初めて、自分が殺人鬼だという証拠を突きつけられ、自分が奪ったであろう人の命の重さを感じ始めた。 「……こんなにも罪を犯すっていうのは苦しいことなんだな……こんな過去…見るんじゃなかった……」 僕は自分の行いに、徐々に後悔を感じ、地面に膝をついた。 「ダメだよ」 そう言った彼女は、いつものヘラヘラした顔ではなく、曇った表情をしていた。 「ダメだよ?君はここに来る前、私に行きてる頃の自分について教えてほしいって言ったんだよ?」 そう言う彼女の顔には、なにか怒りのようなものを感じた 「君は合計で21100人殺してるんだよ?なに一人殺してるところを見て、後悔してるの?後悔するならこの記憶を巡る旅が、すべて終わった後にしろ! 君は21100人全員の苦しみを受け入れる義務があるんだ。生前にできなかったことを、今君がするんだよ!」   「これは私が君に与えた恩寵なんだよ?贈り物なんだよ?そんな顔しないでよ!分かったらありがたく私の善意を受け取れ!そして、現実を受け入れ、過去を!……いや、なんでもない。とにかく、早く立ち直れ馬鹿野郎……」 (私としたことが…余計な事を言うところだった。 これはまだ話しちゃいけないんだった……) いつもの声とは違う、僕に訴えかけてくる彼女の声を、僕は黙って聞いていた。 彼女が言いたいことを言い切り、こちらを見てくる。
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