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一ヶ月少しぶりの母の車の匂い。
昔はあまり好きでは無かったけれど、今は帰ってきたことを実感させてくれる優しい匂いに思える。
「ね、お母さん。さっき商店街横の公園で待ってたんだけどね、」
そう話しかけると、母は不思議そうな表情でこちらを見てきた。
「公園?どこの?」
「だから商店街横の公園だよ。私が小さい頃よく遊んでた、ロバとパンダの乗り物があったとこ!」
「何言ってんの、あの公園はもう無くなってるわよ」
「え?」
母から、衝撃の事実を教えられる。
「結菜が出てってすぐだったかねぇ、この街は子どもが少なくて利用者がいないから何かの事務所を建てるために撤去されたのよ」
「ええぇ――?」
まさか、そんな筈はない。
つい先程まで私はそこの公園で走り回っていたのだから。
確かに不思議な子ども達には会ったけど……
「じゃなきゃ、公園まで迎えに行ってたわよ。
あの道、工事のために道が細くなって今は車が通れないから」
公園自体がすでに無くなっていた。
それなら、私がいた場所は何だったのだろう。
奇妙な体験だったけれど、不思議と怖くはなかった。
むしろ、とても温かい気持ちになれた。
『みんな、お姉ちゃんが大好きだから』
今この時期がとても辛くて苦しかったけれど、
応援してくれる人がいるということが本当に嬉しかった。
「お母さん…信じてくれないと思うけどね、
私、ロバと、パンダと、ケヤキのおじさんに会ったんだよ」
娘が涙を零しながら、こんな意味不明な事を言い出したら母もさすがに困るかな。
そう思ったが、つい口に出してしまった。
「そうなんだ。結菜、あの公園大好きだったもんね」
意外にも母は、私を変人扱いすることなくそのままを受け止めてくれた。
「最後に遊んでくれてありがとうって言いたかったのかもしれないね」
母の思いがけない温かな言葉に、またしても私はウルっときてしまった。
「うん、……そうだといいな」
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