美人公爵令嬢が我を忘れる

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美人公爵令嬢が我を忘れる

 息が荒い。ずるずると引きずって私は歩く。剣だ。脅しに使うものだ。問題は私がその剣を使いこなせないことだ。貴族令嬢として育ったために、剣の扱いに慣れていない。  わがまま放題に育ったと影口を叩かれるくらいなら、剣の扱い方ぐらい無理を押して習得しておくべきだった。刺繍をふんだんにあしらった優美な曲線のドレスなど、こういう時にはまるで役に立たない。  あまりの裏切りで私は常軌を逸した行動に出ている。いや、まだ行動に移してはいないのだから、今辞めればただの未遂だ。未遂で止めたい。でも、頭の中で、心の中で怒りのあまりに収まらない気持ちが燻くすぶってしまう。  時計台の鐘が鳴る。私はせっぱ詰まっていた。早る気持ちとどうにかできないものかと悩む気持ちで、心はちりぢりだった。  耳がよく聞こえない。急激なストレスのせいで何もかもが遠くの音に聞こえる。  私はどうなってしまうのだろう。 ***  ある春の朝、私たちは決断を迫られていた。  母がいなくなって三日も経った。私の名前はフラン・マルガレーテ・ロベールベルク。ロベールベルク公爵家の長女16歳だ。世襲貴族だ。私は大金持ちなのに進退極まっていた。
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