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フランお嬢様の部屋から朝早くに物音が聞こえた気がした。私はハッと目を覚ましてそっと階下に降りて行った。扉に耳をつけて物音を聞くと、やはりお嬢様は何か支度をされているようだ。
息を潜めて、私はそっと階段を上がった。床に這いつくばって様子を伺う。この時間帯は他の侍女もまだみんな寝ているから、私がこんなことをしているとは誰も気づかないだろう。
――お嬢様が部屋から出てくるのを見張ろう。
私の雇い主の話に寄れば、お嬢様はまもなく婚約者にフラれるはずだ。そんなことも知らずにお嬢様は婚約者のミカエルにゾッコンだった。私の目からすれば、ミカエルは陰でうんざりした表情をしていたが、世間知らずのお嬢様はそんなことに全く気づいていない様子だった。
――こんな朝早くにお嬢様は何をされるのだろう?
私が見張っていると、お嬢様は大きな鞄を持って出てきた。公爵令嬢として常におしゃれなお嬢様にしては、非常に地味な服装をしている。
――あんな服も持っていたのね……いつも絹やレースが使われた贅沢なドレスしかお召しになっていないから、お嬢様にしては珍しいわ。
ただ、一つ言えるのは、そんな服装をしていてもお嬢様の光り輝くような美貌は一つも損なわれていないということだ。
――…あぁ、かわいそうに。世間知らずだけれども私たち従者には優しいのに、婚約者に振られるなんて、見ものなのか哀れなのか。私がしっかり見張っているから、お嬢様と婚約者が男女の仲にはなっていないのは断言できるけれど、あの美貌でも男は愛想をつかしてしまうものなのね。
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