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――それにしてもあんな荷物を持って一体どこに行かれるのだろう?
私はお嬢様に気づかれないように、そっと廊下の曲がり角に隠れながら、お嬢様の後をつけた。
――まずはキッチンね。あら、誰か他の人の分も用意されているわ。準備の良いお嬢様らしいこと。
私は庭を抜けてお嬢様が御者のダニーの家をノックしているのを隠れて見ていた。
「急なのだけれど」
とお嬢様の澄んだ声が私のところまで聞こえてきた。女王陛下の設立したアイビーベリー校のご友人を訪ねるらしい。お嬢様は貧しい家の娘たちにドレスを分けてあげるらしい。
――お嬢様は今までそんなことは一度もしたことがなかった気がするわ……でも、お嬢様がくださるなら、是非私も欲しいわ。
フランお嬢様に私が取り入ったら、私の雇い主は激怒するだろうか。
私は逡巡した。私の雇い主は少し怖い考え方をしてしまう気がする。フランお嬢様を敵に回す方がまだマシだろう。
私はフランお嬢様がダニーのために朝食を余分に準備したのだと悟った。
――そうなのだ。フランお嬢様はいい所があるのだ。少々めでたいぐらいに人が良いわ。私の雇い主の方が怖いだろう。
私はこの件は、特に雇い主に報告する必要がないと思った。
お嬢様がいつもの気まぐれで慈善事業をしようとされているのだろう、その時はそのぐらいにしか思っていなかった。
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