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ハンサムな馬番は、私を振り向きもせずに厩を出て行った。
私は慌てて、乗馬服でもないのにスカートで馬に跨って彼を追いかけた。
「はやく来い!」
遠くで彼がこちらに向かって怒鳴っている声がする。私は必死で声がする方向に馬を駆けさせた。
乗馬は好きではないが、一応できる。公爵令嬢だから一通りは身に付けた。しかし、普段は馬車で移動することが圧倒的に多いので、私は慣れないことに仕方なく挑むことになり、少しフラフラしながら馬を駆けさせた。
薄紫のライラックの花が咲き誇るアイビーベリー校の庭を私は必死で駆けた。庭を抜けると、農村が広がり、その向こうに城が見えてきた。
女王陛下の城だ。確かあれはフォーチェスター城だ。
これが彼と私の最悪の出会いだった。生意気で不機嫌で態度の悪い馬番との最悪の出会いは、ライラックの咲き誇る春だった。
すぐに分かったことだが、フォーチェスター城が選ばれし者たちの寄宿舎だった。ヘンリード校は特別な寄宿学校だった。
私はここで運命の二週間を過ごすことになったのだ。今でもライラックの花を見ると、あの特別な春のことを思い出す。
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