359人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたがミカエルと別れたと聞いたの。あなたからフラれたとミカエルは嘆いていたのよ。で、報告なのだけれど、ミカエルと私は婚約したのよ」
――ミカエルとアネシュカが婚約!?
――彼は私に「君の甘えに愛想が尽きて愛を感じられないから別れてください」と言って私をこっぴどく振ったわ。その端から、もう私の婚約者だった彼はアネシュカに求婚したの!?
――まだ彼に振られて間もない私は彼に未練タラタラで泣いていたのに、事態は急展開しているわ。意味がわからない。全然わからない。それにしても、私の従姉妹のアネシュカだなんて……。
私の心臓は凍りつきそうになった。耳が全く聞こえず、彼女の口がぱくぱく動いているのを私はひたすら見つめた。彼女の話す内容が頭に入ってこない。
――アネシュカは今何を言っているのだろう?そもそも、ミカエルの方から別れを切り出したのに。なぜ私がフったことになっているの。
……あぁ、私がワガママな公爵令嬢という評判だったからかしら。ミカエルはその悪評を利用して、自分が私にフラれたことにしたの?
その時、私たちの所に10歳の弟が走ってきた。
弟の姿を見ると、私の耳は音を再び捉え始めた。
「でね、結婚式は急ぐの」
アネシュカは顔を真っ赤にして、言い淀んだ。
「捧げてしまったのよ」
「……捧げるって何を?」
「何って全てよ。ミカエルに全てを捧げてしまったから結婚式を急ぐの。急なんだけれど来月結婚式を行うことになったから、あなたも出席してね。招待状を送るわ」
そこに、弟が私に飛びついてきた。私は銃撃されたような衝撃を受けたままよろめいた。
――私が彼に全てを捧げなかったから……私はフラれたの……?
「姉さん!アネシュカ姉さん、ようこそ。あ!パンだぁ、もらっていいの?」
「いいわよ、カール」
「ありがとう!」
弟は私の手からパンの入ったカゴを受け取ると、「ルドルフ!」ともう一人の弟の名を呼びながら走って母屋に戻って行った。
「わかったわ」
最初のコメントを投稿しよう!