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研究棟へは、鏡魔石の結界が張ってあり、資格所有者の持つ魔石と照合しないと入れない。資格がなくとも資格所有者と一緒にいれば結界の通過は可能だ。
マキラは、研究棟に入る為の扉の前に立った。指輪の形をした白い魔石を扉にかざした。すっと音もなく扉が左右に開いた。マキラとリアは中に入った。
マキラとリアは、同じようにして魔石研究室の奥、資材庫の中に入った。中には様々な種類の魔石が棚に置いてある。部屋の奥の角には冷蔵庫くらいの大きさの箱があった。マキラが扉を開ける。中から冷気の煙が、もくもくとあふれ出た。
中にはいくつかの棚があり、マキラは、真ん中あたりの棚から氷魔石の力で冷凍保存されていた肉塊の様なものを取り出した。
部屋の中央にある作業台にそれを置く。
イチロウには、赤黒い鯉のような魚に見えた。
「竜王よ」
「ええっ?!」
リアは叫んで、まじまじとそれを見た。
「さかなです」
「そうね。魔魚に見えるわ」
マキラが、当たり前に答えた。
リアは、ぼう然とする。魔魚っぽい竜王の鱗は想像を超えて、
――ちっさい……。
マキラが、軽く説明する。
「魔族は、種族や死に方によって灰になったり溶解したりして骸が残らない事が多いけど、竜王族は、死ぬと小さくなっていくのよね。これはもう死んで何千年も経ってる。氷魔石で冷凍保存しても年々小さくなっていってる」
「へー……」
リアは、感心しつつも疲れた様な声を出した。
「研究のたしになるかとずっと保管されているのだけれど、今の所、使い道がないのよね」
リアは、思った。
――竜王の骸はあったけど、思ってたより、でっかい感じじゃなかった。多分、四魔王子の連中も、こんな魚のイメージじゃなかった筈だ。
「貴方たち、何を考えてるか知らないけど、もう竜王の骸は諦めなさい。役に立ちはしないわ」
リアは、マキラを見る。
「もしかして、グリヴァスが来たんですか?」
「さあ、そんな名前だったかしら。やな奴だったから、知らない振りして何も教えてやらなかったけど。そうそう、首絞めてきやがったから、骸は地下にあるってうわさを聞いたって嘘ついて追い返したけど? 何か?」
マキラの目が、氷の様に冷たく光った。
リアは、小さく首を横に振る。
「いえ」
マキラは、胸の前で悠然と腕を組む。
「言っとくけど、私、今のあんたより強いわよ」
――その様ですね。
リアは、心の中で泣いた。
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