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4.グラネッタ
「大丈夫ですか」
異母兄たちが去った後、女子の声がした。
リアは、痛みを堪えながら、仰向けになる。
顔のすぐ上に、自分を心配そうにのぞき込む、波打つ赤い髪の女がいた。グリヴァスの姉のグラネッタだった。透き通る紅い瞳にリアが映っていた。
イチロウは、思わず息を呑む。
――キレイだ――
イチロウは、無様な姿を見られたくなく、焦って、上半身を起こそうとした。その途端、腹部と、額に激痛が走る。
「うっ!」
「いたっ!」
腹部は、蹴られた影響だが、額はグラネッタとがっちんこした為だった。
「急に~!」
グラネッタが、額を押さえて責める様にリアを睨んだ。
「ご、ごめん」
リアは、顔が赤くなった。全身に汗が噴き出す。鼻腔から血が垂れている感触に気が付き、慌てて手の甲で拭う。
立ち上がろうとして、再び腹部が痛んだ。顔を歪め、無意識に腹を手で押さえながら立ち上がった。
グラネッタが、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。弟は、乱暴で」
イチロウは、内心で呟く。
――乱暴って言うか、マジで死ぬかと思った――
「グラネッタは、知ってる? 竜王のこと……」
グラネッタは、馬鹿にしたように顔を歪める。
「そんなの、ただの噂でしょ。この学園が出来たのは300年前よ。それよりもっと大昔に死んだ竜王の骸が、何でこの学園の地下にあるのよ。おかしいじゃない。本当に馬鹿よね、グリヴァスは」
「そ、そうなんだ……」
イチロウは、半分信じていた事を誤魔化すように、辺りをきょろきょろとし、自分の後頭部を触った。
「あんなの、無視していいと思うけど」
グラネッタが、平然と言った。
イチロウは、驚いて、目を見開く。
――いや、そういう訳にはいかんでしょ。
「で、でも、さ」
「また殴られる?」
「う、うん……」
ああ、かっこわる。と、イチロウは、思った。
グラネッタは、何か考える様にリアを見る。顔をリアに近付けた。
イチロウは、グラネッタを見る。胸がドキドキする。
グラネッタが、声を低くして言う。
「リアは、まだ魔力が目覚めてないんでしょ」
「えっ?」
――魔力が、目覚めてない?
「弟は、それを見透かしているのよ。反撃出来ないって。図に乗ってるの」
イチロウは、何も言えず、グラネッタを見る。
グラネッタは、顔を離すと、面白そうに微笑む。
「ここが出来た理由、知ってる?」
「出来た理由?」
「その頃の魔王の息子の中にも、魔族と人間の混血の子がいたのよ」
イチロウは、きょとんとなる。
――今、さらりと重要な事を言われた様な?
「その子も、最初は魔力が目覚めてなくて、一度死んでから魔力が目覚めたんですって。人間って、面倒よね」
イチロウは、目を見開く。
「ちょっと、待って。それって、さ」
「今のリアと同じ。最初、とりまきに殴られてた時、そんなに痛くなかったでしょ」
「うん」
――そこから見てたのかよ。
「あいつら、手加減してたのよ。怖かったんじゃない? 目覚めた貴方に殺られるのが」
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