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5.魔王の座
そうは言ってもな……。
授業後、イチロウは、校舎の廊下を歩いていた。
昔の魔王が、息子の為に作ったと言うこの学園。
授業そのものは、直接魔王を育成するような内容ではない。
そもそも魔王位は、親から子へ継承すると決まっている訳でもない。
魔王を倒したものが魔王となる。完全実力主義だ。
魔王の座を奪ったとて、魔界と人間界を広く支配する為に他者の力も必要となる。周りと協力関係を築けない者は簡単にその座を奪われる。
従わせる方法は、力なのか、権威なのか、はたまたカリスマか。魔王によってそのやり方は違う。
ここで仲間を作れれば、魔王の座に近づく、という訳か。
イチロウは、成程、と思った。だが、だからと言って、魔王を目指す気にはなれない。
「リア様!」
「お疲れ様です!」
すれ違う生徒の中には、頭を下げる者もいる。見下す様な目を向ける者もいる。
へこへこしてくるヤツばっかりならいいけど。敵意むき出しにされて、ケンカ吹っ掛けられるのは嫌だ。
と、イチロウは、思った。
まず、目立ちたくない。
目立ってんだな、俺は。
魔王の息子だから。
イチロウは、ため息をついた。
俺はさ。平穏に暮らせればそれでいいんだ。
せっかく転生したんだからさ。
平和に、平穏に生きたいんだよ。
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