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その時。
ヒュッ!!
と、いう風を切る音と、その直後に、
ガン!!
と、鋭く何かが壁にぶつかった様な音がした。
それは、リアと、グリヴァスの目の前を瞬くよりも早く通過し、側面の校舎の壁に突き刺さった。壁に刺さっていたもの――それは赤い炎のような波紋が刻まれたナイフだった。
グリヴァスの鼻筋あたりが細く裂け、赤黒い血が垂れた。ナイフがかすめたのだ。
グリヴァスは、起きたことが信じられないと言った様子でゆっくりとナイフが投げられた方を見た。
あと三本、同じナイフを指の間に挟んで胸の前で構える姉のグラネッタが、不敵な顔をして立っていた。
グリヴァスは、呆然と呟く。
「姉貴……」
「そこまでよ、馬鹿弟」
「邪魔してんじゃねえよ!」
グリヴァスが、咆えた。
グラネッタは、余裕だ。
「どっちがよ。あんたのバカな行為が一族の総意だと受け取られちゃたまんないのよ」
「は? 俺が魔王になりゃ構わねえだろ!」
「は? 馬鹿なの? 今、ガウデシオンを殺せる奴はここにはいないわよ」
冷静に現実を見据える言葉が、ぴしゃりとその場を打った。
「グラネッタ、チクる気?」
ヴォーグルが、面白そうに腕を組んで言った。黒く長い尻尾がひゅるりとしなった。
グラネッタは、グリヴァスから目を逸らさず、言う。
「チクる? とんでもない。私は火焔族の守護者として必要な報告を上げるまで」
「やめようよ~」
ガルヴァルドが、困った様に微笑んだ。
「火焔族同士がマジで戦ったら火事になっちゃうよ。僕の可愛い子ちゃんたちが丸焼けになっちゃう」
「だとさ」
ヴォーグルが、他人事の様にグリヴァスに言った。
グリヴァスは、苛立つ。
「てめえらはやんねえのかよ!」
「そー言われても」
と、ヴォーグルは、肩をすくめる。
「僕が、グラネッタとやり合う訳ないじゃん、ねぇ」
と、ガルヴァルドは、グラネッタに微笑んだ。
グラネッタは、グリヴァスに目を向けたまま、薄笑みを浮かべ、鼻で笑った。
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